企業力に欠けるアニメ業界、ゲームの資本力に期待

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世界中を魅了する「クールジャパン」。だが統計数字を見るかぎり、日本のコンテンツ産業の世界での存在感は決して大きくない。市場規模は日本の13・9兆円に対し、米国は6000億ドル。日米間の差は実に4倍だ。さらに米国のコンテンツ規模における海外売上比率は17・8%あるのに対して、日本はわずか1・9%だ。

「クールジャパンという文化的な影響力は数字では測れない」と、デジタルハリウッド大学の杉山知之学長は言う。だがこれはホメ言葉ではない。要は「影響力をおカネに変える力が足りない」(杉山氏)のだ。

つねに世界市場を視野に入れているのがハリウッド。先日、ディズニーは日本のアニメ制作会社と組んで『リロ・アンド・スティッチ』の舞台を日本に置き換えた日本版の制作を企画中だと発表した。全世界版で儲けた後は、ローカル版でさらに儲けるという段階まで進んでいる。

一方の日本のアニメ産業は、自前コンテンツで海外に売り込むという基本動作すらおぼつかない。「以前は契約内容をろくに調べもせず、海外に権利を安売りしていた」(業界関係者)。これでは、せっかく作品が海外で人気が出ても、収益が日本に還流するわけがない。

海外と互角に渡り合える人材の不足も悩みの種だ。「英語が話せ、あらゆるメディアに精通するプロデューサーが足りない」と杉山氏は嘆く。ここ数年で東京大学を筆頭にプロデューサーを養成する大学も増えてきたが、経験がモノを言うプロデューサーが机上で育つほど甘くはない。

『攻殻機動隊』などで世界的に有名なアニメ制作大手のプロダクションI・G・は、即戦力として他業界からハリウッドとの交渉要員をスカウトすると同時に、将来のプロデューサーを育てるために若手社員に著作権や版権管理を教える研修を始めた。どこの業界でも当たり前のようにやっている若手社員研修が、アニメ業界ではやっと始まった段階だ。

アニメ制作の現場では、厳しい労働条件を理由にアニメーターのなり手が少ないという問題も抱える。プロデューサーにアニメーター、あらゆる階層で日本のアニメ産業は制度疲労を起こしているのが実情だ。

ゲームソフトの世界同時発売始まる

ゲームは、日本のコンテンツ産業最大の輸出産業だ。任天堂のWiiやDS、ソニーのPSシリーズなど、ゲーム専用機ハードでは、日本勢が世界の主流の座を守り続ける。だが、ゲームソフトについては状況が異なる。米国のソフト販売で上位を占めるのは、アクティヴィジョン、EA、UBIソフトなど欧米系ばかり。日本勢の存在感は低い。

背景にあるのは、日本勢は特定ハード向けのソフト開発が中心で、欧米勢のような複数のハードに対応するマルチプラットフォーム型のソフト開発に消極的だったことや、語学力のあるゲーム開発人材の層の薄さといった構造的な問題だ。

ただ、今後のゲームソフト会社の成長を考えるうえで、海外は無視できない。スクウェア・エニックスの和田洋一社長は、今年の年頭所感で「世界のゲーム会社として、出発の年」と明言。国内向け商品を海外向けにローカライズするだけの輸出産業から脱却し、開発部門を強化して日本語版と他言語版の世界同時発売を目指す。ゲーム業界にはアニメ業界にはない資本力という武器がある。ハード同様、ソフトでも世界覇権を奪えるか。その動きが本格化する。

(週刊東洋経済)

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