「豊かな国と貧しい国の間で真の競争激化は見られない」−−ジャグディシュ・バグワティ コロンビア大学教授

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--貿易、海外直接投資、アウトソーシングなど、民間部門のグローバル化の勢いがあまりにも強いので、どの政治家も時代に逆行することはできないのでしょうか。自由貿易協定やWTOの合意があまり進展しなくても、グローバル化は拡大し続けるのでしょうか。

そのとおり、時代には逆らえない米国企業のアウトソーシングを止めれば、今度はフランスの企業や英国の企業がアウトソーシングに乗り出し、競争において米国の企業よりも優位に立つことになる。そうすると米国企業は事業の縮小を余儀なくされ、10の職を守ろうとした取り組みが、結果として100の職を喪失させることになってしまう。

--貿易が盛んな国は政府支出、とりわけ社会福祉への支出も大きい、との研究結果もあります。

私はその裏付けは乏しいと思う。しかしその反対、つまり、貿易が盛んになれば政府支出を縮小する傾向が強まる、という主張の裏付けもまた、十分ではないと思う。福祉国家を追求するかどうかについて、グローバル化は重要な要因ではない。福祉国家を追求するかどうかは、歴史と文化に負うところが大きい。

--つまり、スカンジナビア諸国などが福祉国家を志向するなら、それは可能であり、グローバル化がそれを妨げることはないということですか。

そのとおりだ。そして実際にもそのとおりになっている。スカンジナビア諸国に関して重要なのは、教育の改革を現実に成し遂げたという点だ。これらの国々は、労働力のスキルを向上させることに成功した。賃金にスキルのプレミアムがついていることになる。

これとは逆に米国では、事態を好転させるのは容易ではない。スラム地区などの問題を抱えているからだ。リーダーたちが「自ら学べ」と叫ぶだけでは、マリー・アントワネットが貧しい人たちに向かって「パンを手に入れることができなければ、お菓子をお食べなさい」と言うのと同じようなことだ。米国にとっては、教育こそが深刻な問題だ。

真の競争の激化は、豊かな国と貧しい国との間に見られるのではない。豊かな国と貧しい国とでは生み出す商品の種類が異なるからだ。真の競争は豊かな国同士の間で激化する。そしてその勝敗は、一部には、教育レベルの高い労働者が新たな技術を使いこなす能力にかかっている。この競争により、職の脆弱性(職の変動)が高まってくる。
(リチャード・カッツ(在NY)=週刊東洋経済特約)

Jagdish Bhagwati
インド出身。ケンブリッジ大学で学び、MITおよびオックスフォード大学に進んだ。現在、コロンビア大学教授であり、外交問題評議会で国際経済専門のシニアフェローも務める。最新の著書『グローバリゼーションを擁護する』は、世界中で高い評価を受けている。複数の賞を受賞していて、日本政府からは旭日重光章を授与されている。

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