「豊かな国と貧しい国の間で真の競争激化は見られない」−−ジャグディシュ・バグワティ コロンビア大学教授
多くの職は技術変化が原因で消滅している
--賃金カットを受け入れなければアウトソーシングするぞ、と言って労働者に迫る企業もあります。
確かにそのようなことを口にする経営者はいる。しかしデータを見ると、ほとんどの企業はそれを実行することはない。コールセンターがインドへアウトソーシングされるなど、一部の仕事がアウトソーシングされる一方で、インソーシングも見られる。多くの企業が米国から、会計業務などさまざまな業務をアウトソーシングしているが、実際には、米国は失った職よりも多くの質の高い職を得てきた。
--グローバル化は、急激な技術の変化など、他の要因が引き起こす問題のスケープゴートにされている、とお考えなのですか。
貿易は、極めて労働集約的な、低スキル・低賃金の職には影響を与える。しかし、もっと多くの職は、技術の変化が原因で消滅している。とりわけ為替相場が調和を欠いている場合、貿易によって仕事や賃金に圧力がかかることがあるのを私は否定するわけではないが、これは職を失う労働者にとっての主要な問題ではない。
--ローレンス・サマーズ元財務長官は、世界を政治的に安定化させるには、所得の均等、社会のセーフティネットなどが必要と言っています。しかし、これらを実現するために増税すれば、資本が流出し、企業は国外へ工場を移転させることになるでしょう。それでも、このような主張は正しいとお考えですか。
正しくない。私はこの問題を『In Defense of Globalization』の中で取り上げた。ダン・クエール元副大統領がブッシュ元大統領の競争に関する諮問委員会の委員長を務めていた当時、私はクエール氏とこの問題を議論した。産業界は安全性や公害に関する基準などについてのさまざまな規制に不満の声を上げるが、他の国々の基準が低いことについて不満を言い立てることはほとんどない。
私はメキシコのマキラドーラ(外国企業が工場を設立するための特別区)について調べてみた。含鉛ペイントに関するカリフォルニア州の基準を回避しようとして、米国の小規模な家具会社数社がこのマキラドーラに進出した。メキシコにはそのような基準はなかった。私は、カリフォルニア州はこれら企業を引き留めるために、含鉛ペイントに関する基準を引き下げなければならなくなるのではないかと思ったが、実際にはこれとは逆のことが起こった。カリフォルニア州は基準を引き上げたのだ。
わが国のシステムや、何が正しく、何が正しくないかに関する私たちの分別の中には、一定の基準が確立されていて、このような基準は維持されていくものなのだ。「底辺へ向けての競争」が始まるのではないかという不安はあるが、それを実証するものはない。