難民問題の裏で巨大化する密入国ビジネス 昨年は年間30億~60億ドルのカネが動いた
テスフォムが数カ月をかけて、3つの銀行口座を使い、3通りの方法で送金して、弟を欧州に逃れさせた過程は、欧州の難民をめぐる危機を過熱させている密入国ネットワークの内実を浮き彫りにするものだった。
欧州刑事警察機構(ユーロポール)によると、昨年にこうした密入国で30億〜60億ドルもの金が動いたとみられている。大半は難民や亡命者の親族が、愛する者を助けようと、世界各地から送ったものだ。
50人近い難民や密入国業者2人への取材、イタリアや欧州連合(EU)の当局が公表した書類から、アフリカと欧州の間で入念に築かれた密入国システムの詳細が浮かび上がった。
金の受け渡しは、当局の調べが及ばぬよう、人間同士の信頼関係に基づいた仕組みに依存している。業者は10人ごとのグループ単位で密入国を請け負う。昨年8月には地中海を渡るのに1人当たり2200ドルを徴収した。1年前は1500ドルだった。
ユーロポールによれば、こうした密入国取引には、昨年3月以降で3000人近くが関与。リビアとシチリア島との数千隻に上る海上輸送に手を貸したとの疑いで、イタリアだけで24人以上が逮捕された。
シチリア島で業者を告発したカロジェロ・フェラーラ検事によると、ある組織の首謀者はエチオピア人とエリトリア人の計2人。アフリカの別の誘拐組織から移民を買い取り、600人乗りの船をイタリアに向けて出すたびに80万〜100万ドルの売り上げを稼いでいた。
利益を増やすため、安くて老朽化した船を使い、給油も不十分だった。どうせ欧州当局が捜索や救助を行うと当て込んでいたのだ。
国連の潘基文・事務総長によると、イタリア海軍は2013年後半からの1年間で約15万人を救助したが、節約目的で2014年後半にこの救助作業は停止され、欧州各国による制限付き任務に置き換えられた。
「リスクのないビジネス」
人間を積荷とする船が沈めば、密輸業者の損失は最小限に抑えられる。フェラーラ検事は「このビジネスにリスクはない」と語る。「取引中の麻薬が行方不明になれば誰かがその代金を払わなければならないが、移民が海に落ちて大半が死んでも、(密輸業者が)金を失うことはないから」。
これまでのところ、こうしたネットワークの大半は摘発されていない。多国間にまたがる匿名の組織によって構成されているからだ。そして、密輸業者に運命を託す難民も、費用を支払っている家族も、業者の運営手法自体には関心を示さないからだ。