再編が急加速する薄型テレビ業界、次は赤字企業の淘汰か
一方、今回の合従連衡には、パネル供給側がリスク分散を図ったという側面もある。勝ち組と呼ばれるシャープも、ソニーや東芝と組まければならない事情を抱えていた。それは、度重なる投資によって膨れ上がる生産能力をどう埋めるか、という問題だ。
液晶テレビのパネル生産は数千億円に上る投資が必要な装置産業である。シャープは業界に先駆けて生産効率の高い大きなガラス基板を使った工場を建設し、コスト優位性を武器に先行者利潤を享受してきた。
さらなるコスト競争力強化のためにブチ上げたのが、総投資額約3800億円に上る堺に建設中の新工場だ。第10世代と呼ばれる3メートル四方の世界最大のガラス基板を使用。フル稼働時の生産能力は、大型の40インチ換算でも年間1200万台以上になる巨大工場である。
ところが、シャープの今年度の液晶テレビ販売台数は、小型サイズを含めても900万台弱。液晶テレビ需要がさらに拡大するとはいえ、現在の旗艦工場である亀山第一、亀山第二工場の生産能力も合わせると、とても自社製テレビ向けだけで賄いきれない規模に膨らむ。新工場の稼働率を上げ、巨額の投資を回収するためには、世界でも有数の販売力を誇るソニーのような強力なパートナーをつかまえる必要があったのだ。
もっとも、パネルの合従連衡が進んでも、最終製品であるテレビメーカーの数が減ったわけではないため、厳しい競争が続くことに変わりはない。特に、メーカー各社が主力に据えている40インチ以上の大型サイズの価格は、引き続き年2~3割近く下落するとみられ、利益確保に苦しむメーカーは多いだろう。
「テレビはリビングの顔であり、AV家電の中心となる存在。赤字でも事業撤退はありえない」(大手電機メーカー幹部)という考え方は、どのテレビメーカーにも共通している。だが、赤字を垂れ流し続けるようであれば、今度はパネル生産だけでなくテレビメーカー本体の再編・淘汰に発展することも十分ありうる。
特に体力で劣る中堅メーカーは、すでに厳しい状況に追い込まれている。日本ビクターはテレビ事業の不振で2期連続の営業赤字に陥っている。「テレビから撤退しないと再建は難しい」(金融関係者)との見方が大勢だ。プラズマパネルの生産撤退を発表したパイオニアも、どれほどの収益改善が図れるのか、不透明感が強い。さらに言えば、薄型テレビで利益を上げているのは、松下、シャープぐらい。ソニー、日立、東芝といった大手でさえ赤字というのが実態だ。脱落者がいつ出てきても不思議ではない。
(週刊東洋経済)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら