無傷のヤフー、気がつけば広告の“覇者”、秘訣は既存媒体との共存《広告サバイバル》
「ヤフーはITに強いプラットフォームの会社。コンテンツに強いパートナー会社さんにはどんどん当社の技術を使ってもらいたい」--。5月21日、東京都内で開かれた日本雑誌広告協会の講演会で、ヤフーの井上雅博社長は、こう出版関係者に呼びかけた。
総崩れともいえる広告・メディア業界。その中にあって、唯一ともいえる好業績を上げ続けているのが、ヤフーだ。既存メディアはおろか、他のポータルサイトなどネットメディア各社が、いずれも業績を落とす中で、ヤフーは前2009年3月期も過去最高益をたたき出した。同期に営業利益が前期比約3割減となった電通、リクルートとは対照的だ。
ヤフーの広告事業は、全売上高の5割強を占める最大の収益部門。前期は、売上高が1638億円と前期比25%増、営業利益が734億円、同13・5%増という高成長をキープ。
さすがに不況色が強まった09年1~3月期は前年同期比4%弱の増収にとどまり、09年4~6月期も、ヤフーは広告事業が前年同期比マイナス成長に陥る可能性もあるとアナウンスする。しかし、これは最も悪いシナリオでの想定。なおプラス成長を維持する可能性は少なくなく、テレビや新聞広告の2~3割減など業界環境を考えれば、なお好調と言っていいだろう。
なぜ、ヤフーは無傷なのか。最大の要因は、日本のインターネット利用シーンで断トツのユーザーをつかんでいることに尽きる。
ヤフーのユーザー数は月間5000万人、ネット利用者の約85%が、何らかの形でヤフーを利用している。トップページだけで1日平均300万人以上が閲覧する。また多様なサービス展開で、1日平均15億ページビュー(PV)の閲覧数を稼ぐ。競合となる有力他サイトと比較すると、利用者数で2倍、PVでは10倍程度の差をつけている。“視聴率”がモノを言う広告の世界では、その差は圧倒的だ。とりわけ、広告予算が絞られる最近の局面で広告主は「ヤフーへの広告出稿だけは残しておく」という姿勢になり、独り勝ちの体制がますます強まるという構図だ。
そのヤフーの基本スタンスは、冒頭の言葉どおり、あくまでプラットフォームの提供者で、自ら情報を発信する“メディア”企業ではない。