電通の苦闘--プライド捨て小口営業で地べた這う《広告サバイバル》
「待っていてはダメ。こちらから仕掛けろ」--。かつてない逆境の中、電通は今、変身を遂げようと必死だ。そこで成果を上げつつあるのが、冒頭のフード・アクションを含む公共政策キャンペーン事業だ。
生物多様性(環境省)、オリンピックの東京招致活動(東京都)……。電通は次々と公共政策キャンペーンを手掛けつつある。昨年7月には、専門部局のソーシャル・プランニング局を創設。上條典夫ソーシャル・プランニング局長は「今人員は47人いるが、観光や新エネルギーなど国の政策に関連して引き合いがすごい。人が足りない状態だ」とうれしい悲鳴を上げる。
上條氏は自局のビジネスモデルをこう説明する。「いきなりビジネスにするのではなく、社会が動き出すことにかかわり、社会に役に立つことを先に考える。それが回り回って利益に跳ね返ってくる感じだ」。
たとえば公共政策キャンペーンでは、行政から得る事務局受託金はさほど大きくない。電通のクリエーターが作った運動のロゴやマーク、ワード等も行政や民間に無料で提供している。実際に稼ぐのはその後だ。
多くの民間企業を巻き込んで情報発信や商品キャンペーンを展開する中で、企業の具体的なマス広告の需要が発生する。そこでより多くのカネを稼ぐのがミソである。これを組織別に見れば、ソーシャル・プランニング局が、企業の関心の高い社会的テーマを耕し、広告需要を創出する田植え係。そして営業局が、直接クライアントから広告の注文をもらう収穫係となる。
収穫は、フード・アクション以外でも始まっている。生物多様性では、5月22日付日本経済新聞で電通買い切りの大々的な広告特集を行ったばかり。オリンピックの東京招致では、タレントの間寛平のアースマラソンを企画し、協賛する企業のCMを集めた多数の特別番組を日本テレビ系列で放映する予定だ。
「社会の合意を形成する局面では今でも、テレビの訴求力は強い。また新聞など活字メディアの信頼感も武器になる」と、上條氏は公共政策キャンペーンがマス広告につながりやすい構造を説明する。
1980年代、電通はロス五輪を契機に権利ビジネスを本格化させ、広告需要を呼び起こす全体的なプロデュースに乗り出した。「今ではスポーツや映画などの権利ビジネスは数百億円を稼ぐ柱になったが、私のイメージでは10~20年後のソーシャル・プランニング局のビジネスもそれに近い姿になる」(上條氏)。