産油国バブル崩壊は通貨危機の連鎖に繋がる アジア通貨危機を超える危機になる可能性

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焦点となっているイランはどうか。1月16日に経済制裁が解除されて、凍結されていた550億ドルの在外資産が即日使えるようになり、早くもパリへ行ってエアバスから飛行機をまとめて買ったりしている。買い物は増やすだろうが、原油の生産はすぐに増えるわけではない。

昨年4月にスイス・ローザンヌで「イラン核合意」の枠組みが決まったので、テヘランで関係者に会ってきた。その後は予定どおりに制裁解除まで進んだ。ただ、その時、現地の専門家は、原油については、在庫はすぐ売れるが、施設が老朽化しており、西側からおカネと最新の技術・設備を導入しないとすぐには生産再開できないと話していた。現在イランの生産量は日量280万バレルだが、1970年代には600万バレルあった。これが今後、どのように増えてくるかだ。

シェールオイルなど北米産原油の減産で年央には40ドルは回復すると見ている。30~60ドル、というのが需給バランスで説明がつくフェアプライスだ。もともと100~140ドルという価格のほうがおかしい。地政学リスクや投機マネーで高くなっていた。いまの20ドル台は逆に安すぎる。(CTAなどのファンド筋)が歴史的な水準の売りを仕掛けているためだ。いずれは買い戻しが入る。

逆に、50ドル、60ドルになれば、シェール企業の採算がとれ始めるので、それ以上は上がらない。これが以前とのレジームチェンジだ。OPECの調整による価格管理はできなくなり、スウィングプロデューサーの役割は中東からアメリカにバトンタッチされた。油価が100ドルにはもうならない。

2020年を見通せば・・・

原油は基本的に輸送に使われる。飛行機と船と自動車だ。飛行機はほかのものでは代替できない。しかし、船は環境規制でLNGになっていく。問題は自動車で、ハイブリッド車に見るように燃費がよくなり、先進国では電気自動車も普及し水素自動車も出てくる。クルマも減る。

IEA(国際エネルギー機関)が「19世紀は石炭の世紀、20世紀は石油の世紀、21世紀は天然ガスの世紀」といっているが、COP21の「パリ協定」では化石燃料は使わずに今世紀の気温上昇を2度まで、できれば1.5度までにとどめましょう、宣言した。地中にある化石燃料を全部掘ったら気温は8度上がってしまう。

パリ協定の強制力を強めれば"stranded asset"になり、埋蔵している化石燃料を全て使えなくなる時代がくるかもしれない。サウジアラビアの国王は「おじいさんの時の交通手段はラクダだった、お父さんは自動車を運転する、息子はジェット機に乗る、孫は再びラクダに乗るだろう」といっていた。

ただ、もう少し現実的な話をすれば、現在、上流投資が激減しており、いずれ供給が減ってくる。一方で、中国やインド、アジアの国々で自動車が普及してくれば需要は増える。そのことで、需給バランスが崩れて2020年頃にはいったん1バレル=70~75ドルに上がるかもしれない。シェールオイルは2020年頃から徐々には減退すると思われ、その後は再び中東が原油市場に復活するだろう。

高井 裕之 国際ビジネスコンサルタント

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たかい・ひろゆき / Hiroyuki Takai

2013年6月より現職、住友商事執行役員。1980年神戸大学経営学部卒、住友商事入社。非鉄金属本部で7年間のロンドン駐在を含んで17年間メタルトレーダーとしてのキャリアを積む。その後、金融事業本部に転じ、商品デリバティブ取引・資産運用業務・PE投資業務等を経て、金融事業本部長として航空機リース事業などを手がけ、エネルギー本部長として、石油や天然ガスのトレーディング業務やシェールガスなどの上流資源投資を担当。経済産業省・産業構造審議会の商品取引所分科会委員を永年務め、東京工業品取引所の元非常勤取締役。20年7月から欧州エネルギー取引所グループ上席アドバイザーに転じる。

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