『海岸線の歴史』を書いた松本健一氏(評論家、作家、麗澤大学教授)に聞く

--例を挙げてください。

一例を引けば源平の戦い。源氏は騎馬武者の集団、平家は商人上がりの武家集団であり、平家がどこの港を使ったかは気にされてこなかった。平清盛は都を兵庫の福原の泊に移すこともしている。それだけ、海に対する親近感があり、船も多く持つ。その平家が、なぜ壇ノ浦をはじめ、騎馬集団を相手に負けたのか。

源氏は熊野水軍を使った。実は武蔵坊弁慶は熊野水軍の出身。弁慶が義経側につくということは熊野水軍、つまり九鬼水軍が加担したという歴史的事実の知られざる側面があったからだ。この点でも海の要素を忘れてはならない。

--司馬遼太郎の『街道をゆく』のように、この本を契機に「海岸線をゆく」の長期書下ろしもありえますか。

ある人からも言われた。司馬さんは『街道をゆく』を25年間にわたり週刊誌に連載した。同じような長期の連載ができるのではないか、と。

確かに日本には中国の2倍、アメリカの1・5倍の海岸線があり、多くの港を持ちそれも変遷がある。いまもいたるところに津だとか浜とか浦とかの名が付いた地名が残る。もちろんそこには、歴史や文化がある。ということは、港や海岸線にそれぞれの物語がある。日本人は多くが海を渡って渡来してきてもいる。海岸線から見た日本、さらに世界について物語はまだ書き始められたばかりだ。

ただ、25年連載するとなると、私は100歳に近づいていく。この本の場合も文献で探索するだけでなく、実際にそこに足を運び、見聞していることが、内容の強み、厚みになっている。現場で現在の風景を見ることが大事な要素なだけに、果たして続けることができるだろうか。

(聞き手:塚田紀史 =週刊東洋経済)

まつもと・けんいち
1946年群馬県生まれ。東京大学経済学部卒業。法政大学大学院で近代日本文学を専攻。著書に『近代アジア精神史の試み』(アジア・太平洋賞)、『開国・維新』(吉田茂賞)、『評伝北一輝』(毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞)。


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