収益細る農林中金、証券化商品の塩漬けも
世界中の大手金融機関が、巨額の投資損失を穴埋めするために資本調達に奔走する中、身内のJA(農協)、信農連から1・9兆円もの大規模な出資と、劣後ローン拠出でガッチリ支えてもらった農林中央金庫--。
2007年3月期には米国の証券化商品を中心とするクレジット投資で、単体で3656億円の経常利益を上げ、08年3月期も3527億円を稼いだ。だが5月27日に発表した09年3月期決算は一転、経常損失6127億円、純損失5675億円に転落した。
一方で、3月末の自己資本比率は08年3月末の12・55%から15・65%にハネ上がった。中核的な自己資本であるTierI比率も9・37%から9・61%に上昇。今期計上した巨額損失と、3月末の「その他有価証券」の含み損1・5兆円(税効果分除く)を計上しても、それを補う増資の効果があるためだ。
初の生え抜きトップ(農林水産省の天下りでない)河野良雄理事長は決算発表の席上で「系統組織への運用収益や機能の還元」を強調した。
今後、JAから上がってくる38兆円もの貯金に対し「奨励金」と称するプレミアム金利(利幅は開示していない)を付したうえで、毎年500億~1000億円と経常利益は薄いものになる。
含み損は2兆円に拡大
運用資産60兆円のうち、有価証券の利回りは大幅に低下している。外貨の調達コスト約9兆円は下がっているものの、09年3月期は有価証券の売却・償却損、与信費用などの損失合計6957億円を除いても、経常段階で830億円の利益しか上がらなかった計算だ。売却して現金化した資産や新規資金は、安全資産での運用にシフトする方針だから、さらに収益は縮む。
昨年9月末以降には、変動利付国債や、償還蓋然性が高いと監査法人から認められたABS(資産担保証券)やCLO(ローン債務担保証券)の時価評価について、ブローカーの提示する価格から理論価格に変更して9269億円も評価損益をカサ上げした。さらに実に14・4兆円分もの「その他有価証券」を、評価損益の開示が不要な「満期保有目的の債券」に保有区別を変えて塩漬けにしている。
それでも3月末の有価証券全体の含み損は、昨年9月末の1・57兆円から2兆円に拡大した。農林中金では「時価が下がっただけで、裏付けとなるキャッシュフローは大半が健在。満期まで待てば損が出ずに戻ってくる」と見る。ただ景気の悪化次第では、キャッシュフローが毀損することもありうる。さらに時価が下がれば、追加の減損処理を迫られるリスクがある。農林中金は、まさに正念場を迎えている。
(大崎明子 撮影:今井康一 =週刊東洋経済)
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