国際問題を解決する技術開発とは何か−−ジェフリー・サックス コロンビア大学地球研究所所長
国際協力の枠組みを構築すべきだ
炭素の吸収と隔離について考えてみよう。発電所や他の化石燃料の大量使用者は二酸化炭素を吸収し、それを地下の油田跡などに永久保存すべきである。その費用は二酸化炭素1トン当たり30ドルはかかるだろう。企業が行動を取るには何らかのインセンティブが必要である。さらに技術を実験し、改善を促すような政策を講ずる必要がある。
炭素の隔離を経済的なものにするためには、新しいタイプの発電所を建設する必要がある。二酸化炭素を隔離場所まで輸送するパイプラインも建設しなければならない。漏出を管理するモニターシステムも構築しなくてはいけない。同様に、安全な手続きを順守させ、国民の支持を得るためには新しい法律が必要である。こうしたことを実現するためには時間がかかり、高額な投資が必要で、大学や政府の研究所、民間企業の科学者とエンジニアの協力も欠かせない。
さらに、こうした種類の技術は、特に中国とインドで一般的に利用されるようになって、初めて有効になるのである。これは技術革新に対する新たな挑戦となる。開発された技術を貧困国に移転しなければならないからだ。先進国が新しい技術を独占してしまうなら、世界的な問題を解決するために広範に利用するという目的は達成されないだろう。技術開発は、最初から国際協調に基づいて行われなければならない。
また問題を解決するために、新しい国際的な取り組みも必要である。目的を達成するために国際的な目標を設定し、科学的、技術的、政治的プロセス(仕組み)を設定しなくてはいけない。モデルプロジェクトを促進し、技術移転を支援するために、新しい予算措置を講じるべきである。技術開発を促し、技術を独占させないようにするために、企業に対して十分なインセンティブと市場での報酬を与える必要がある。
私は、新しい技術を開発するための政府と民間企業のパートナーシップを構築することが、国際的な政策の目標になると信じている。各国は、クリーンエネルギーや薬品・ワクチン、農耕や漁業の技術改善、干ばつや気温変動に強い穀物の開発、高燃費自動車、低コスト灌漑技術を実現するために国際的な協力を模索すべきである。
特に先進国は、貧困国や民間部門と協力して、そうした努力を行うべきである。技術的な前進が達成されれば、人類に驚くほどの恩恵がもたらされるだろう。持続的な開発という課題に取り組んでいる科学者やエンジニアにとって、今はまさに興奮に満ちた時代である。
ジェフリー・サックス
1954年生まれ。80年ハーバード大学博士号取得後、83年に同大学経済学部教授に就任。現在はコロンビア大学地球研究所所長。国際開発の第一人者であり、途上国政府や国際機関のアドバイザーを務める。『貧困の終焉』など著書多数。
(=週刊東洋経済)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら