国際問題を解決する技術開発とは何か−−ジェフリー・サックス コロンビア大学地球研究所所長
2月初め、米国技術アカデミー(NAE)は「21世紀のエンジニアリングに対する偉大な挑戦」と題する報告書を発表した。
同報告書は、世界の貧困問題の解決と環境への脅威に対して、技術がどのような可能性を持っているかに焦点を当てている。画期的な技術進歩が期待される分野として、低コストの太陽エネルギー、発電所から排出される二酸化炭素の処理技術、核融合、新しい教育技術、窒素肥料の環境に与える副作用の管理技術などがリストに挙がっている。さらに、新たに取り組まなければならない国際的な問題にも焦点を当て、持続的な経済発展を可能にする先進技術の開発の必要性を訴えている。
世界各国は金融政策や核兵器の非拡散といった分野での国際協調について議論することには慣れているが、クリーンエネルギーやマラリアのワクチンといった新しい技術についてあまり議論することはなかった。おそらく、技術開発は企業が市場で販売する製品を作り出すために行うものであって、国際的な問題を解決するためのものだとは考えられていないのだろう。
しかし、世界が直面している貧富の格差拡大や大規模な環境破壊といった問題を解決するためには、新しい技術の開発が必要だ。電力発電、自動車、熱、冷房のエネルギーの利用方法を劇的に変えない限り、今までのようにエネルギーを利用することはできない。
二酸化炭素の排出について考えることなく石炭や天然ガス、石油を使い続ければ、気候変動を招き、その結果、疫病がはやり、作物が不作となり、干ばつと洪水が引き起こされ、海面が劇的に上昇し海岸で海水の氾濫を招くことになるだろう。
米国技術アカデミーは、こうした問題に対する解決策を提案している。それは核エネルギーの制御、太陽エネルギーの低コスト化、あるいは化石燃料の燃焼によって発生する二酸化炭素を吸収し、安全に隔離することである。しかし、そうした技術はまだ利用できるまでに至っていないのが実情だ。
そして、それらが提供されるまで無為に待っていることもできない。なぜなら、そうした技術が安全性と信頼性を確保して、広く人々に受け入れられるようにするためには、政策を変える複雑な手続きが必要だからである。しかも現在、民間企業が新しい技術を開発するために投資を行うようなインセンティブは存在していないからである。