三菱UFJ証券の情報流出、止まらぬ顧客名簿の転売
三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下の三菱UFJ証券で起きた、約5万人分の顧客情報流出事件。元部長代理(懲戒解雇)が不正に持ち出した名簿は多数の企業に流れた。
発覚当初の8日時点で、流出先は直接の売却先である名簿業者3社を含め、二十数社と見積もられていたが、その後80社以上に膨れ上がった。
名簿業者3社が、少人数分の見本提供と転売を認めた先は計29社。それ以外は「顧客への聞き取りで判明した。ただ情報の入手経路はわからない」(三菱UFJ証券の前田孝治常務)。大半は不動産投資や商品先物の勧誘業者で「深夜の電話など、かなりしつこい勧誘もあったようだ」(秋草史幸社長)という。
名簿が業者間で転売された可能性は高く、流出先は今後も増えそうだ。三菱UFJ証券は流出先に警告書を送っているが、問題は情報の使用・転売を差し止める法的手段がないことだ。
2005年4月に施行された個人情報保護法は、5000人超の個人データを扱う事業者に、今回の事件のような不正流出を防ぐ内部管理体制の整備を求めている。だが、いったん流れてしまった情報をせき止めるのは不可能に近い。同法が「個人情報が有用に利用されるケースまで制限できない」(内閣府個人情報保護推進室)という理由で、名簿売買を認めているからだ。
業者が取得した個人情報の第三者への提供(売却)は、利用目的を特定し、それをホームページ上などで公表さえすれば、本人の同意は必要ない。本人が業者に求めれば提供は停止できるが、際限のない“いたちごっこ”となる。
名簿業者の中には「パチンコ攻略法購入者」「幼児教材購入者」など、かなり細分化された個人データを扱っている業者もいる。
中央大学法科大学院教授の野村修也弁護士は「機微に触れる情報は販促手段だけでなく、取引先の選別などにも使われる危険性が高く、流出被害は甚大。善意の第三者を装い高く買い取る者がいるから盗む者も出る。悪質な名簿業者へは規制も視野に入れるべき」と指摘する。
重要な個人情報の流出は、社会的影響が大きい。三菱UFJ証券の顧客管理体制はもとより、個人情報保護のあり方を考え直す必要もありそうだ。
(武政秀明 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)
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