海外で大絶賛される「阿波踊り集団」の正体 ニューヨークやパリ市民を踊らせた「寳船」

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――米澤さんの中での、阿波踊りに対する印象の変化は?

20代はずっとバンドをやってたんです。インディーズでCDを出したり、ライブハウスで全国ツアーもやってました。阿波踊りとは対照的なロックバンドで、曲作りしてボーカルして。そんなとき、あるプロデューサーから言われたんです。「売れるアーティストは、人生のアイデンティティを込めて表現している」、「自分の人生で得たものを作品に投影しないとだめだ」と。

僕の場合は、それが阿波踊りで。昔は友達に言えなかった阿波踊りが、自分のやりたい音楽を通じて、実は自分の武器だと気付かせてもらいました。遠回りだったかもしれないけど、阿波踊り以外に表現活動の軸となるものはないし、自分らしく生きるときの自分の武器も阿波踊りだ、と気づいたことで、必然と今のマインドになっていったというところです。

人生のアイデンティティを表現活動にこめる

バンドの方向性に悩んでいて解散した2011年は、寶船がはじめて海外公演を行ったのと同じ年。それまでやっていたバンドではなく、阿波踊りの方で海外の人が喜んでくれたっていうカルチャーショックと、ずっと自分のオリジナリティを探していながらも人のまねばかりしていた音楽への挫折とがちょうど重なって。「今、自分が信じられるのは阿波踊りなのかも」そんな気持ちでした。海外のお客さまのおかげで、自己肯定感が生まれたんです。クラスメイトにも阿波踊りのことを話せなかったのに、海外の人が喜んでくれたことが、自分にはすごく大きかったと思います。

――現代の日本に大切なものは?

日本は多様化の時代。でも、多様化は孤立化じゃないと思っています。パソコンやマンガの前で孤立化させてはいけない。みんなバラバラな個性でも、踊りがはじまれば1つの空間でたのしめる阿波踊りのように、多様化した社会はひとつになろうと思えばなれる、というところが大事。若者がハロウィンに夢中になるように、みんなひとつになれる場所を求めている。江戸時代のころから、そういう人の本質は変わっていないと思います。

ーーそのために、寶船がやっていることは?

若者向けに、学校公演と芸術鑑賞会には力を入れています。学校主催の芸術鑑賞会は、つまらなくてたいくつな印象があるようです。でも、寶船の場合は、観終わった後でファンになってくれる学生がすごく多いです。若者にもっと日本の文化のよさに気がついてもらいたいですね。

また、僕らは学校でも老人ホームでも公演をします。学校でも老人ホームでも、やることは変わらないんです。どこででも喜んでもらえることが、寶船の強み。もっともっと広い世代に見てもらいたいです。そしてこれからは、多くの人と一緒に踊っていけるように、ワークショップみたいな形で、誰でも阿波踊りをはじめやすい環境を作りたいです。

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