軽井沢バス事故に垣間見る「観光立国」の暗部 なぜ貸し切りバスの惨事はなくならないのか
運賃について山本部長は「(上げてもらう交渉は)しづらい。仕事を出す側のほうが立場は強い」と弁明。「基準額を下回っているかどうかの確認を怠っていた」というずさんさと同時に、値下げの常態化もうかがわせた。
都内の中堅バス会社で、新人の指導なども担当するベテラン運転手は、貸し切りバスの運転について「初めての場所を走ることが多いため、ルートの決まった路線バスと比べて、知識と腕と判断力が必要。大型バスに慣れていないドライバーに、それも夜間の運転をさせるなんてありえない」と憤る。その一方で、安全管理がずさんなバス会社の例は「残念ながら、特に新規参入した業者の内情として、業界ではよく見聞きするのが事実」とも漏らす。
後手に回る国や業界の対策
貸し切りバスは規制緩和によって2000年に免許制から許可制に変わり、新規参入が増加。1999年度に2336社だった事業者は、2013年度には4512社まで増えた。
だが事業者拡大の一方で、重大な事故も相次いだ。2007年2月には、大阪府吹田市でスキーツアーの貸し切りバスがモノレールの橋脚に衝突。1人が死亡、26人がケガを負った。2012年4月には、群馬県の関越自動車道で高速ツアーバスが防音壁にぶつかり、7人が死亡する事故が起きた。いずれも運転手の居眠りが原因で、バス会社の安全管理体制が問われることとなった。
前出のベテラン運転手は、新規参入業者から転職したドライバーの指導を担当したことがある。「彼らの運転の技量は低く、教育に苦労するレベルだった。運転技術も磨けず、無理のあるスケジュールで過労運転が続けば、事故が起こるのも無理はない」と打ち明ける。
むろん、業界や行政も対策をしてこなかったわけではない。
2011年度には、業界団体である日本バス協会が貸し切りバス会社の安全に対する取り組みなどを審査し3段階で評価・認定する、「貸切バス事業者安全性評価認定制度」がスタート。2013年8月には、運転手1人で運行できる距離を原則として夜間は400キロメートルまで、などとする基準の改正が行われた。
さらに、相次ぐ事故の背景にあった、無理な低運賃に歯止めをかけるため、安全コストなどを反映し、国が定めた基準をベースに運賃を決める、新しい運賃・料金制度も2014年度に導入された。
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