不正会計への道は「善意」で舗装されている まじめな日本企業が陥る「本土決戦」思考

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そして社外取締役の本来の役割は、そもそも不正会計をする必要がないくらいに、企業がしっかりと収益をあげ続けられるよう、たとえばある事業が不振に陥っていれば「この事業はおかしい」と進言するなどして、外部から経営陣を支援することである。決して、「結果」としての不正会計を見破ることではないのだ。

さて、健全に事業が収益を生み出すよう舵取りをする主役は、もちろん経営者である。もし事業の回復が見込めないなら撤退する決断も下す必要があるだろう。しかし、こうした決断を先送りにし、結果的に被害を拡大させる経営者は、特に日本では後を絶たない。

不正会計への道は善意で舗装されている

おそらく経営者も「構造的にこの事業は負け戦になっている」とか「もう自社の事業単位だけではやっていけない」ということはわかっているはずだ。シャープの液晶も東芝の家電も、冷静に考えればそれは明々白々なのだから。要は「どこで撤退を決断するか」だけなのである。しかし、日本企業の経営者はこれができないのだ。これは「太平洋戦争をもっと早く終結させればよかった」という議論と同じで、長引けば長引くほどよくない。しかし会社という共同体内だけで議論をしていると、できるだけ「昭和20年8月15日」が来るのを引き延ばそうということになりがちなのだ。

日本的企業は極めて同質的な共同体であり、その内部においては「現状の共同体内の調和をできるだけ乱してはいけない」という暗黙の同調圧力が働く。特にありがちなのは、かつて企業全体の収益に非常に貢献した伝統事業――シャープであれば液晶、カネボウであれば繊維、東芝であれば家電など――にメスを入れるということがたいへんなタブーになってしまうことだ。社長自身、あるいは前社長で自分を後任に指名した会長がその事業部出身であればなおさらだ。よほど会社が追い込まれてからでないと「メスを入れるのも仕方がない」というコンセンサスは得られず「共同体内の不文律を乱す裏切り行為」と見なされ、社内で権力を維持することができなくなるのだ。

また当該部門も、絶対に負けを認めない。それは自らの保身のためというより、まじめだからこそ、「まだやれる」「がんばらせてくれ」と言うのだ。もちろん「シャープとして液晶事業をなんとかしたい」のであり「ジャパンディスプレイの一部としてがんばる」とか、ましてや「サムソン電子の一部としてがんばる」という考えは、その共同体の中には存在しない。結局、できるだけ「8月15日」を引き延ばそうとして、「次は沖縄で決戦だ」「本土で決戦だ」と、ジリジリと破滅の道を進むのだ。

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