一流ビジネスマンが企業不正に「墜ちる」理由 東芝の不正会計事件を他山の石とせよ

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日本公認不正検査士協会の濱田眞樹人理事長
一流企業といわれてきた東芝で起きた不正会計事件。歴代3社長の下、大規模で組織的な利益操作が行われていた事実は、社会的にも大きな波紋を広げた。週刊東洋経済は9月26日号で『東芝 傷だらけの再出発』を特集。今回発覚した東芝の不正会計は、同社だけに特有の事件だったのか。企業不正の防止と発見に関するトレーニングを提供する日本公認不正検査士協会の濱田眞樹人理事長に聞いた。

コーポレート・ガバナンスに大きな欠陥があった

――東芝で発覚した不正会計をどう分析されていますか。

はっきり言えるのは、コーポレート・ガバナンス(企業統治)に大きな欠陥があったということ。株主が議決権を行使して、独立した取締役と会計監査人を選任して、経営者がおかしな方向に行かないよう監督(モニタリング)する。それが本来のコーポレート・ガバナンスだが、東芝はこうしたガバナンスが健全に作用していなかった。

もうひとつの問題は、内部統制の失敗だ。内部統制とは業務、報告、コンプライアンスのために組織内に張り巡らしたプロセス。当然、東芝もそれらを整備して、運用して、監査まで受けていたが、実際には経営者によって無効化されていた。

濱田眞樹人●立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、一般社団法人日本公認不正検査士協会理事長

――東芝は複数の社外取締役を招いて「指名委員会」や「監査委員会」を設置するなど、欧米流のガバナンス形態を早くから取り入れた先進企業と言われていました。

正直、私もそう考えていた。東芝は2003年から委員会設置会社に移行し、形としては日本企業の先頭を走っていた。ガバナンス報告書は非常にすばらしい出来で、社外取締役も立派な経歴の持ち主ばかりだった。しかし、形や器はあったけれども、実質としてはガバナンスが機能していなかった。単に欧米の形を真似ただけで、いちばん大事なガバナンスの精神を欠いていたことになる。

――濱田さんの指摘する「ガバナンスの機能不全」とは、社外取締役が不正を見抜けなかった事実を指しているのですか。

違う。よほどつじつまの合わないおかしな数字でも上程されない限り、社外取締役が各事業での会計不正を見抜くなんてできっこない。企業不正は実行者によって隠蔽されるからだ。本質的な問題は、部下に無理な数字を強いたり、実質的に利益操作を指示したりするような人物が、東芝のトップに就いていたという事実です。

ガバナンスがきちんと機能していたら、そんな人物が社長に選ばれ続けることはなかったはず。指名委員会はあっても、実質的に社長が次の後継者を選んでいたから、今回のような不正会計が続いた。倫理観を欠いた人間をトップとして認めてきたわけですから、当然、社外取締役にも責任はある。

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