ベストセラー生む名文家たちの「書く技術」 「嫌われる勇気」からジブリまで
こう見えて自分は「書く人(ライター)」になって数十年。「書く」ということほどむずかしく、そして恐ろしいものもないことは、身をもって知っている。そこで、「いま頃おせーよ」というツッコミ覚悟で、「書く」ことの達人たちに、その極意を聞く旅に出た。
まず訪ねたのは、ライターの古賀史健(ふみたけ)さん(42)。「アドラー心理学」なるややこしい理論を、青年と哲人の対話というスタイルでわかりやすく説いた『嫌われる勇気』の著者のひとりだ。
2013年の発売以来92万部を売り上げた同書のほか、インタビュー集『ドラゴン桜公式副読本16歳の教科書』や、堀江貴文氏の『ゼロ』など、数多くのベストセラーでライティングを担当してきた。
『嫌われる勇気』のように「著者」に名を連ねた本こそ少ないが、ヒットメーカーとして、出版界では以前から知られた存在。書籍でいう「ライティング」は、著者にインタビューするなどして本にまとめることを言う。
「大切なのは、語られた内容だけでなく、その人の『声』を再現すること。執筆中は、机にその人の写真を飾り、声や表情をイメージしながら書いています。声が聞こえてくるような文章が理想ですね」(古賀さん)
起承転結にはしない
インタビューが終わると、本に含めたいと思った要素を付箋(ふせん)数十枚に書き出す。この付箋を並べ替えたり、足したり引いたりしながら、本の流れを決めていく。ときには編集者と一晩中、ひざをつき合わせながら構成を考えることもある。
キモとなるのもやはり「構成」。つまり、文章の組み立て作業にあると古賀さんは言う。
「僕が思ういい文章の条件は、第一にリズム。そして文章のリズムを決めるのは、話の筋が通っているかという論理性。支離滅裂な文章では、それだけで読む人のリズムを断ち切ってしまいます。美しい言葉で飾った“美文”より、構成のしっかりした“正文”であることが大切です」