ベストセラー生む名文家たちの「書く技術」 「嫌われる勇気」からジブリまで
行政書士の資格を持ち、人生相談に乗って示談書や協議書、遺言書などを「書く」機会も多い。7、8年前、書くことで人助けをする売れない作家が主人公の小説『代筆屋』(辻仁成)に触発されて、代筆屋になることを決意した。
ラブレターから謝罪文、「売ってください」「買ってください」というお願い文まで、何でも請け負う。多いのは片思いの相手へのラブレター、離婚した妻に復縁を請う手紙や企業の謝罪文。依頼人と面談したり、20~30 通ものメールをやりとりしたりして、毎月平均5通ほどの代筆の依頼を受けているという。
「依頼人の気持ちを客観的に整理整頓するのも代筆屋の仕事。心理カウンセラーのような側面もあります。依頼者の熱い思いを客観的にクールダウンして、わかりやすい文章に仕上げるようにしています」(中島さん)
「代筆した手紙が100通を超えたころ」に見えてきた極意は三つ。ポイントは「温度」だ。
依頼人の思いを一気に書き上げたら、1千字程度にカットする。その後、一晩以上寝かせて読み返すことで、熱すぎる文面の「温度調節」をする。
「ひらがなを使うことの効能も感じています。一見、子どもの手紙のようになりますが、特にプロポーズの手紙やラブレターでは、熱い思いを冷やす効果がある。漢字で『優しい』と書くより『やさしい』としたほうが、読む人の心が動くことが多いですね」
共感ポイントを作る
「会話のトーンで文章をつづる」ことも重要だ。
「熱くなりすぎず、かといって冷たくならないようにする書き方のコツがコレです。会話なら、難しく複雑に考える前に、素直な気持ちをそのまま伝えようとしますよね。人の心を動かす手紙の“温度”があるとしたら、妙にこなれた文章より、会話の感覚に近いんじゃないかな」
温度管理に注意しながら、たとえば謝罪文なら「自虐」を、ラブレターなら相手との「共通体験」を盛り込むことで、読む人の共感ポイントを作ることも忘れてはいけないという。
そうして書き上げたプロポーズの手紙はこんな感じ。
「せめて100歳までは、/記念日を覚えています。/せめて100歳までは、/毎日きれいって言うよ。(中略)/せめて100歳までは、/あなたといたい」
最後は、スタジオジブリ代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫さん(67)の門をたたこう。