(第25回)2010年卒の新卒採用の現状を「最新の調査結果」と「8カ月前の展望」の両面から検証する

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●8か月前の「2010年新卒採用の展望」

 今から遡ること8か月前、採用プロドットコムでは人事採用・研修関係者を集めた数日間のイベントで「2010年の新卒採用の展望」という題名で数回の講演を行っている。
 当時、講演用のスライド作成にあたり、各種の調査資料や採用の現場から届く生の情報などから、サブプライム問題が各業界の採用計画に影響を与えることになるだろうと予想はしていた。
【図a】有効求人倍率(新規学卒者を除きパートタイムを含む)
出典:厚生労働省
 2007年11月まで2年間にわたり1倍以上で高どまっていた有効求人倍率は、2007年12月に1.00倍を割る(0.98倍)と一転して減少傾向となった。図aに示したとおり2008年に入ってからの有効求人倍率は減少に歯止めがかかっていない。
 新規雇用の調整が新卒よりも先に中途採用からその影響を受けるのは、かつての景気後退期の傾向と同じだと思われていたが、採用市場はかつてよりも敏感に反応。
 2008年6月18日~6月21日にイーキャリアプラスが調査した2009年度の企業の採用予算の前年比は、中途(1094万円→523万円)や第二新卒(882万円→253万円)の領域に加え、新卒採用(1322万円→663万円)の領域でも減少傾向を示していた。

 雇用調整の動きが「いつ、どのような形で新卒に及ぶのか」という点については、図bに示したとおりで、2009年度採用計画では「事務系学生の採用を減らす」「中止する」という考え方が目立ち始めていることで大きな方向性が見えていた。企業は新卒採用予算の減少分を「採用を減らす事務系職種」に向けていたのだ。本連載でも何度かにわたって述べているが、昨夏の時点で新卒市場への雇用調整が事務系→技術系へと段階的に絞り込みが進められる可能性が大きかったというわけだ。
【図b】2008年度と比較した2009年度の採用人数
採用プロドットコム調べ
 ではそれから8ヶ月後の状況はというと、先ごろ、日経新聞がまとめた2010年春の採用計画調査(一次集計)を見てみると、事務系は2009年実績比で10.5%減のマイナスに転じたが(製造業では33.7%減)、技術系は20.3%の増加とある。業績に苦しむ製造業でも大手に人材をとられていた中堅クラスを中心に12.5%の増、非製造業においては26.5%の大幅な増加計画となっており、昨夏の方向性が現実の計画となっていることがわかる。

 製造業が新卒採用を絞り込むなかで、「理工系の採用数削減を最後の砦」と考えるのは、理工系に進学する学生が激減している背景を考えれば極めて自然な考え方だ。
 対して採用数削減の影響を真っ先に受けやすいのは、中堅校の文系学生であることは、本連載でも述べてきたとおりだ。
 ここ数年、大幅な拡大傾向にあったメガバンクなど金融機関の新卒採用人数は、採用対象の底辺を拡大。それが学生の金融業界人気に拍車をかけ、一部の業界との求人倍率格差を生んだ。このような動向がいわゆる「採用の二極化」という現象を招いた一因で、具体的には従業員1000人以上の金融業界の企業の求人倍率は0.34倍であるのに対し、流通業界は7.15倍という格差となって就職・採用市場に表面化していた。

 ロスジェネを再生産しないためには、2010年度の新卒採用については文系学生の就職に対する意識の持ち方や大学側の指導の在り方、つまり売り手市場の感覚を引きずった大手・人気業界志向を払しょくしなければならない。また、学生がキャリア意識に基づいた偏りのない仕事意識を形成、大学側の支援も的確な雇用の受け皿業界を視野に入れて行うことが必要だ。
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