知恵と熱意で集客する地方、国際映画祭、コミケ、ガンダムの直立像…《特集・日本人の旅》
米アカデミー賞の外国語映画賞を受賞し、一躍ブームとなった『おくりびと』。そのロケ地・山形県酒田市が全国から注目を集めている。ロケを誘致した酒田ロケーションボックスの市村浩一事務局長は大忙しの毎日だ。「ロケ地ツアーをやりたい」という旅行会社の対応に追われている。
酒田市では、ロケ地マップを作成するなど観光客の利便性向上を狙うが、「単にロケ地を訪れてもらうだけではダメ。再度足を運んでもらうには、楽しかった思い出が必要」(市村氏)。ロケ地マップにはロケ中にキャストやスタッフの利用した飲食店がズラリと並んでいる。試しにリストに名前のあったある料理店に入ってみると、某女優が来店したときのエピソードを、店主が楽しげに語ってくれた。各社のツアーが実行される今春以降は、観光客が押し寄せるだろうが、一過性のブームで終わらせないためには、市民との対話による「思い出づくり」が不可欠だ。
同じ山形県では、隔年開催の山形市の山形国際ドキュメンタリー映画祭が有名。「商業映画の映画祭はいくらでもある。やるならドキュメンタリー映画で」(同映画祭東京事務局の濱治佳氏)。1989年のスタート以来、入場者数は毎回着実に増え、2007年の前回は過去最高の2万3000人が同地を訪れた。
会期中は世界中からやってきた映画関係者や観光客で、市内は一気に国際色に染まる。「街をぶらぶら歩いている外国人映画監督に気軽に声をかけ、話し込む人も多い」(濱氏)。山形市内には早じまいする飲食店が多い。そこで期間中は、映画人とファンの交流の場として夜10時から交流の場「香味庵クラブ」がオープンする。ワンドリンクにおつまみ付きで500円、さらに芋煮など郷土料理の無料サービスもある。金銭的余裕のない国からの来訪者にはありがたい場所だ。
財政が破綻して意気消沈する北海道夕張市。ところが、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」の時期だけは、2~3月という厳寒時にもかかわらず、街中が熱くなる。
市の財政破綻の影響で06年には休止に追い込まれたが、NPOが主催する形で08年に復活した。市当局は支援したくてもカネがないが、500名を超える市民ボランティアが手弁当で汗を流す。映画人も業界を挙げて応援する。2月26日~3月2日に開催された09年はアカデミー作品賞を受賞した『スラムドッグ$ミリオネア』など本公開前の映画が招待作品として多数投入された。
09年の動員数は約1万人。ピーク時の半分だが、これは財政破綻の影響で一部の宿泊施設が使えなくなったため。市内の宿泊可能人数がそもそも多くないことに加え、先に来年の分を予約して帰る人も多い。「上映作品リストを見てから行きたいと思っても、すでに満席」(同映画祭の外川康弘東京事務局長)。映画祭の一層の拡大のためには、インフラ整備が不可欠だ。