潜水艦では、定員外の寝床は「魚雷の架台」? 知られざる潜水艦乗りの生活に迫る<後編>
なお、艦内に「ものを持ち込むとき」「ものを持ち出すとき」は、必ずその重さを量って記録を残さなければなりません。このことについては、拙著『潜水艦の戦う技術』(サイエンス・アイ新書)にも記しました。
閑話休題。当直の話に戻ります。先ほど、行動中は必ずひとつの直が立直していると書きました。残りの2つの直は非番ということになりますが、この間「まったく暇」というわけではありません。当直を交代して食事が終わると、自分たちが立直していた間に何が起こっていたのかを検討、整理します。これを「再校正作業」と言います。
もちろん外部からは情報を得られませんから、潜水艦が得た情報を洗い直し、データを検討して書類を整備していきます。この作業は結構大変で、「気がつくと次の食事になっていた」ということも少なくありません。
また、行動中の潜水艦ではさまざまな機器の故障が発生します。この場合、故障箇所を調べ、修理にあたるのは、現に当直についている者(現直員と呼んでいます)ではなく、次に当直につく者(次直員)です。たとえば、3つある舵の1つが故障したとします。このようなことに備えてバックアップのシステムがあるのですが、故障箇所の探求や修理とともに、このバックアップのシステムを操作し、潜水艦の行動に支障が生じないように舵を作動させ続けるのは次直員なのです。
もし、故障が長時間にわたる場合には、途中で哨戒直の交代が必要になりますが、まず、次直員の次の直の者が修理やバックアップシステムの操作を引き継ぎ、それまで修理などを行っていた次直員は現直員と交代して当直につきます。このように当直についていないからといって、なかなか「まったり」というわけにはいきません。
しかし、つねに緊張を強いられていては長期の行動を乗り切れないので、それぞれに工夫しながらリフレッシュの時間を楽しんでいます。娯楽はトランプや囲碁、将棋が主流のようです。士官室ではトランプゲーム、コントラクト・ブリッジが盛んなようです。
「難しい本」はよく眠れる
中にはベッドで好きな音楽を楽しんだり、読書にいそしむ者もいます。出港直後は、コミックや軽めの小説がよく読まれるようで、そのうちに段々と堅いというか、難しい本が読まれるようになる傾向があるようにも見受けられます。もっとも、本人たちは「難しい本だと2、3行も読めば眠くなってよく眠れるから」と笑っていました。
また、潜水艦を支援してくれる潜水艦基地隊の厚生課には、たくさんのDVDが用意されていて、出港前に借りていきます。ただ、潜水艦では音が出ることを嫌うという根本的な性質に加え、ベッドで休んでいる者への配慮もあって、DVDを鑑賞する場合にはイヤホンを使用します。
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