個人主義の仏国民も実は「世間体」気にする深い訳

「人よりユニーク」を打ち出すことがストレスに

例えば、フランス企業はこの10年、社員の福利厚生にメンタルサポートを導入している。インセンティブとしてメンタルクリニックの診療費を会社が支払うというもの。理由は社員がストレスをため込んでいて、うつになって休職する例が増えているからだ。

「言いたいことを言って好きなことをして、5週間以上有給があるのにストレスがあるの?」と言われそうだが、事態は深刻だ。その背後には建前と本音の間で葛藤するフランス人のもう1つの顔がある。

私のフランス人の友人、アンドレはアメリカのハーバードビジネススクールでMBAを取得後、フランスで3つのアメリカ系大企業に勤め、アメリカ人と働いた経験を持つ。彼はこう話す。

「アメリカ人は通勤ラッシュを避け、朝7時前にはオフィスに到着し、仕事に集中し、午後3時から4時ごろには帰宅し、帰宅後、趣味に興じたりしている。職場でも仕事を楽しみ、帰宅後は好きなことをしているので、年に2週間程度のバカンスでも十分やっていける。一方、フランス人は嫌々ながら職場に9時ごろ出勤し、職場でも人間関係などでストレスをため、夜7時ごろに帰宅するとへとへとな生活なので、5週間のバカンスは必須だ」

彼は「フランス企業にも成果主義のプレッシャーがかかるようになり、事態は悪化している」とも言う。

「2008年に民営化されたフランステレコム(現オランジュ)で、(2008~2009年に)自殺者が35人も出たのも仕事のプレッシャーに耐えられなかったからだ。自殺したのは若いエリート社員で、アメリカ人のように仕事を楽しむなんて冗談という状況だった。自分も2度、アメリカ人のボスとけんかしてクビになっているが、フランス人の抗議の仕方にアメリカ人はあきれていた」と過去を振り返る。

ワークライフバランスの追求は評価を下げないため?

フランス人が必要とする長期バカンスも、戦後、権利として勝ち取ったわけだが、バカンスは豊かな生活を示すものだ。フランス人女性は肌を小麦色に焼いてバカンス後に職場で自慢する慣習がある。それもこんがりと満遍なく焼けていれば、遠距離の海外の孤島などで豪華なバカンスを過ごした証拠になり、セレブぶりをアピールできる。焼け方にムラがあれば国内の安旅行と見られてしまう。

パリ市内でエステを経営する友人のジャックリーヌは、夏になると、中途半端にバカンスで焼けた肌をきれいに焼くためにエステに通う女性も少なくないと証言する。つまり、バカンスをどこで過ごしたかを自慢し合うために苦労しているという話だ。バカンスに行けない家族が近所の人に悟られないようにガレージで3週間過ごしたという笑い話もあるほどだ。

ワークライフバランスを追求しているのもステータスで、長時間労働は哀れに見られるため、働きたくても余裕を見せる必要がある。男性が子どもの学校行事に参加するという理由で会社を休むのも、自分が勤める会社はワークライフバランスを尊重するいい会社だと印象付ける意味もあり、内心、自分の会社での自分の評価が下がることを心配する人も少なくない。

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