(第2回)「マネジメント」は管理することではない

●マネジメントの本来の意味は管理ではない

 マネジメントとは決して管理することだけではありません。英語のmanageが本来意味するところは「管理」ではありません。manageは通常の会話の中で次のように使われます。例えば、私が海外に商談に行って、初めてのお客さんとの商談がうまく終わったとしましょう。時計を見れば夕方の6時ごろでした。お客さんが「この街は初めてですか。なんならこれから街をご案内しましょうか」と提案してくださったとします。しかし常識人なら、初めてお会いしたお客さんにそこまで面倒はかけたくないと思うのが普通でしょう。そんなとき、“I can manage by myself.”(「私自身で何とかできると思いますので」)と言います。つまり、“manage”という言葉の本来的な意味は「どうにかこうにか何とかする」ということなのです。

 ですから、マネジメントは管理ではなく、前例もなく良いか悪いかの判断もつきかねるような問題を、どうにかこうにか何とかしていく仕事だといえます。実際、仕事の現場でマネジャーに上がってくる問題は、部下が解決できない、それも右を選んでも左を選んでもどちらも同じくらいにメリットとデメリットがあることばかりです。
 また、マネジャーが多くの時間を費やさなければならない人間に関する問題は、それぞれにすべてが背景も当事者も異なりますから、絶対的に正しい解などない複雑でややこしい問題ばかりです。
 英英辞典で“manage”を引くと“do something difficult”とか“deal with problems”という意味が最初に出てきます。こういう意味合いを持つ言葉だからこそ“manage”という言葉が人の上に立つ人の役割としての言葉として使われてきたのでしょう。

 ドラッカー著作のほとんどを翻訳してきた上田惇生氏の講演で、私は「なぜ“management”という言葉が日本では『管理』と訳されているのでしょうか」と質問したことがあります。上田氏の答えは「私は自分の翻訳の中で“manage”という言葉を『管理』と訳したことは一度もない。“management”という言葉に対応する適切な言葉は漢語にも大和言葉にもないのです」というものでした。そろそろ私たちも、“management”とは「管理」ではなく、「どうにかこうにか何とかしていくこと」だと、認識を改めるべきではないでしょうか。

 さらに言えば、“manage”の“man”は「手」を意味する語根です。“manufacture”とか"manicure"と同じ手にかかわる言葉なのです。ラテン語をたどれば"manage"は「手で馬を訓練する」という意味からきています。ここで大切なのは、「ムチ」で馬を訓練するのではなく「手」で訓練するということです。手で馬を訓練するのと同じように、手で部下を訓練することがマネジメントの本来的な意味であることがわかれば、マネジメントは管理ではなく、もっと人の温もりがあり、医者が患者の手当てをするような、人に寄り添う優しさを感じられる言葉になるのではないでしょうか。
國貞克則(くにさだ・かつのり)
1961年生まれ。東北大学工学部機械工学科卒業後、神戸製鋼所入社。
プラント設計、人事、企画などを経て、1996年米国クレアモント大学ピーター・ドラッカー経営大学院でMBA取得。2001年ボナ・ヴィータ コーポレーションを設立して独立。中小・中堅企業の社長の右腕として財務・人事・戦略分野などの本社機能をサポートすると共に大手企業の中間管理職を対象に会計・リーダーシップ・戦略論の教育を行っている。また、子供向けの竹とんぼ工作教材を販売する「竹とんぼ屋」の店主でもある。
主な著書『財務3表一体理解法』(朝日新書)、『「財務3表のつながり」で見えてくる会計の勘所』(ダイヤモンド社)、『書いてマスター!決算書ドリル』(日本経済新聞出版社)、訳書に『財務マネジメントの基本と原則』(東洋経済新報社)がある。
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