英雄神話が持つ魅力は、なぜ色褪せないのか ルーカスも影響を受けた「千の顔を持つ英雄」

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ジョージ・ルーカスは〈スターウォーズ〉三部作を見に来てほしいとキャンベルを招待するぐらいに師として尊敬している逸話が知られているし、日本の物語作家では冲方丁など多数のクリエイターがキャンベルからの影響を表明しているが、膨大な知識と洗練された語りはもちろんのこと、この直感的なわかりやすさ、納得のしやすさが影響しているのではないかと思う。

もちろん、神話構造をそのまま援用することでスター・ウォーズが作れるわけではないにせよ、人を引きつけ世界に残り続けている物語の「何か」にあたる部分が無数に取りそろえられている本書は、物語を作る人間からすればバイブルともいえる一冊だ。

いまどき、神話なんて

いまどき、神話について何かを知っている意味があるのだろうかと問いかける人もいるだろう。

しかし、神話はいまだに語り継がれ、構造を受け継いだ物語はメディアを変えながらも世界中に広がり、現実でも裁判官は儀式ばった黒い法服を着込んでいる(象徴を身にまとう。神話に力がないのだとすれば、スーツでも問題はないはずである。)。かつて占星術や神秘が当たり前のように存在していた時代と、物理学が事象に説明をつける現代とでは神話が持つ意味が異なるのは確かだが──世界にはまだ神話が、それを元にした物語が息づいている。

それを知ることは、『いまでは人間そのものが最高の神秘である』と本書が語るように、われわれ自身を知ることに等しい。本書は英雄譚を読んでいくだけでも楽しく、また物語創作や読解に際しても大いに機能する一冊ではあるが、なぜ人々は英雄に引きつけられるのかを解き明かす、人体に依然として作用しつづける普遍ルールの探求と発見の書でもあるのだ。

ちなみに、神話が及ぼす現実への影響やその力の話とくれば、ジョーゼフ・キャンベルを語り手に、ビル・モイヤーズを聞き手とした共著『神話の力』も外すことはできまい。モイヤーズが前書きにて、『キャンベルは千もの物語を語ることのできる人だった。』と語ってみせるがまさにその言葉どおりに、本書『千の顔をもつ英雄』とは違って対話篇でありながら次から次へと東洋と西洋、まさかそんなものまでというような民間伝承までが語られていく様は圧巻である。

冬木 糸一 HONZ

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1989年生。フィクション、ノンフィクション何でもありのブログ「基本読書」運営中。 根っからのSF好きで雑誌のSFマガジンとSFマガジンcakes版」でreviewを書いています。

 

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