パート主婦を新たに悩ませる「106万円の壁」 手取り収入減だけでなく社会保険も考慮せよ

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なお、106万円の壁が導入されても、働く時間を週20時間未満に減らす、あるいは従業員数が501人未満の企業に転職すれば、2016年10月以降も引き続き年収130万円未満までは社会保険への加入義務はない。夫の扶養に入り、かつ手取りを下げないようにすることが可能だ。ただし、社会保険の加入対象者は、将来的には拡大される方針だ。遅かれ早かれ、パート主婦が106万円の壁に直面することに変わりはない。

社会保険に加入したら、人生での手取りは増えるのか?

では、保険料を負担して社会保険に加入したら、どれほどのメリットがあるのだろうか?

まず健康保険について。病院を受診したときの窓口負担は、夫の扶養家族となり保険料を自己負担しなくても、自分で加入しても、いずれも3割だ。違いが出るのは病気やけがで仕事を休んだ場合。自分で加入すれば、傷病手当金として、仕事を休んだ日について、おおよそ日給の3分の2が支給される。もし傷病手当金を受け取ることがあれば、保険料を自己負担した以上の金額を受け取ることもありうる。ただし自分の健康状態は誰にも予測できないため、収支を推計するのは困難といえよう。

これに対して厚生年金は、自分で加入すれば将来受け取る公的年金の額が増える。40歳で月収10万円(年収120万円)の人なら、月収がずっと変わらないとすると、20年加入して自己負担する保険料の総額は約210万円。これに対して、公的年金を65歳から80歳まで受け取るとすると、厚生年金部分の受取総額はほぼ同じ金額になる(※5)。80歳よりも長生きすれば、支払った保険料に対して、受け取る公的年金が上回ることになる。

※5.厚生年金の保険料は20年間同額と仮定。年金受給見込み額は約13万円/年、65歳から満80歳までの16年間受け取るとして試算

結局、社会保険には加入すべきか?

目先の手取りを優先するなら、106万円の壁を超えないように年収を調整するほうがよい。逆に、生涯での総支払額と受取額の収支を考えれば、社会保険に加入しておくほうが有利になる可能性もある。

特に厚生年金については、先述の例では80歳が損益分岐点になった。年金の受取額は個別性が高いうえ、自分が何歳まで生きるかは誰にもわからないため一概にはいえない。しかし、日本人女性の平均寿命が86.8歳で、2人に1人が90歳を迎える(※6)という現在の状況からみれば、仮に平均寿命まで生きるとしたら、保険料を支払って加入しても、それを上回る便益を得られる見込みはありそうだ。

(※6)厚生労働省「平成26年簡易生命表」より。90歳まで生存する女性の割合は48.3%である

老後資金の準備の面では、公的年金では足りない上乗せ部分も重要だ。厚生年金に加入すれば、退職時には勤務先の企業年金を受け取ることもできるかもしれない。また、掛け金を積み立てて運用する、確定拠出年金(企業型または個人型)に加入できる場合もある。

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