なぜ、1%が金持ちで、99%が貧乏になるのか? 《グローバル金融》批判入門 ピーター・ストーカー著/北村京子訳 ~金融危機の再発防止に通貨発行特権の廃止提言

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利益は自分の懐に入れ、損失を国庫に転嫁した1%の彼らこそ、世界経済を破綻に陥れた張本人にほかならない。しかも、彼らが荒稼ぎした金融システムは現在も健在である。どうすれば再発を防止できるのか。トービン税の導入や租税回避地の閉鎖など、本書の最終章には多くの解決策が並んでいる。その中で評者が引かれたのは「おカネを生み出す特権の撤廃」である。

銀行が貸付けで創造するおカネ(預金通貨)は日本でも12年6月末で458兆円、日銀が発行する現金通貨の77兆円に比し5・9倍に達する。この預金通貨の発行特権を廃止して貸付金の供給を中央銀行に限定すれば、資金面からバブルを抑制できると同時に、通貨発行の特権に伴う収益も国庫が独占できる。著者の試算では日本政府が使えるおカネは年間17兆円も増えると言う。使えばなくなる埋蔵金よりもずっと魅力的だ。消費増税で分裂の危機にある民主党は、真偽も含めて著者の提言を検討してみたらどうか。

Peter Stalker
国連コンサルタント、複数の国連機関の顧問。1944年アイルランド生まれ。英オックスフォード大学卒業。オクスファム(世界で最大規模のNPO)、BBCなどに勤務の後、開発問題をテーマに幅広い執筆活動、出版物・報告書の編集に携わる。

作品社 2310円 266ページ

  

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