非常時に対応し切れなかった歯科医による身元確認、生かされない教訓--震災が突きつけた、日本の課題《5》/吉田典史・ジャーナリスト

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都築氏は当時を振り返りつつ、語る。

「私が現地に行った3月中旬には震災発生直後ということもあり、歯科の対応にはいくつもの問題があったが、それらはこの冊子に詳細には書かれていないように思えた」

岩原氏は「県の歯科医師会には問題として感じる歯科医師もいると思うが、そうではない人もいるのかもしれない」ととらえる。岩原氏自身は「遺体安置所での歯科所見採取をはじめ、今後の課題は多いと思った」と語る。

私が「いくつかの問題」について尋ねると、都築氏はこう答えた。

「たとえば、遺体安置所にあったご遺体の中には、口を閉じたまま、硬直していたものがあった。そのような場合、本来、開口器を使い、口を開けて手で触り、歯の治療痕などを確認しないといけない。ところが、身元不明死体で歯科検査済みのご遺体でもそれがされていなかった。正確な歯科所見採取が行われたのか、と疑問に思った」

さらには、他の歯科医師からは、全国から駆け付けた歯科医師の中には、遺体をわずかに見るだけで、触ることすらしていなかった人がいたとも聞いた。都築氏は指摘する。

都築氏は指摘する。「ご遺体の口の中を横から見て判断できる場合もあるのだろうが、通常は、口を開けて噛み合わせの面を見ないと正確な所見にはならないと思う。また、5月の連休前後までは口の中の写真撮影や歯のレントゲンを撮ることはなかったと他の歯科医師などから聞いている」

確かに、私が確認をしてもそれらの問題は冊子には詳しくは載っていない。

問題を問題として認識しない

私は宮城県の歯科医師会はなぜ、問題を公にしようとしないのか、と聞いた。都築氏は数秒間を置き、答える。

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