非常時に対応し切れなかった歯科医による身元確認、生かされない教訓--震災が突きつけた、日本の課題《5》/吉田典史・ジャーナリスト

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「歯科医師だけの問題ではない、とは思う。平時には遺体の検視に関わっていない警察官が遺体安置所の責任者をしていたケースもある。日ごろ、遺体の検視などに直接関わることが少なく、要領を得ていなかったとも考えられる。その意味で、歯科医師だけで解決できることではないのかもしれない」
 
 そこで、宮城県警と岩手県警の違いを聞いてみた。双方ともに震災直後から遺体安置所などでは懸命に身元確認や検視を行ってきた。

都築氏は「岩手県の遺体安置所にいた警官は、震災発生から1カ月を過ぎた時点では、ご遺体を実に丁寧にきちんと扱っていた。慣れているように見えた。宮城県の遺体安置所は、私が行ったときは震災発生直後ということもあり、問題は少なからずあった」

岩原氏はこう語る。「ある遺体安置所に行ったとき、そこにいた担当の警官は歯科医師である私たちが何をするのかをわかっていないようだった。同じ安置所にいた、他県から応援にきた警官が“歯科の先生、お願いします”などと言う姿を見て、私たちが何をするのかを理解し、指示を出すようになってくれた」

さらに、私は尋ねた。最近、宮城県警は身元がわからない遺体の似顔絵をホームページなどで公開した。それらを見ると、丁寧によくできている。宮城県警は十分な対応をしているのではないか、と。

都築氏は「もちろん、警察はきちんと対処している」と答え、続ける。

「だが、公開に至るまでに1年数カ月の月日が経っていることを考えると、対応が迅速に進んだとは思えない。このことに限らないが、震災発生直後に混乱することは避けられない。その期間をできるだけ短くして、いち早く平時の状態に戻すことが必要。そのために、日頃からリスクマネジメントを考えておくべきなのではないだろうか」

宮城県の遺体安置所で起きていた問題は被災地全般について言えることなのか、と聞いてみた。都築氏は「私たちが行った時期、場所で見聞きした範囲でしか言えないが、遺体安置所によっては体制に大きな差があった。警察本部などの中央に情報が集約されていないことも問題だと思う」と答える。

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