「パットがうまい選手はどんな人ですか?」時々そんな質問を受けるんですがね。それには「パターを1本しか持っていない人」と答えることにしているんです。
実際そうなんです。普通、ティーショットを打ってセカンドはアイアンでグリーンに乗せて2パットのパー、これがパー4のホールの攻め方です。18ホール中、どのホールもパターを2回使うのが基準となってるわけです。14本のクラブの中で最も多く使うパターに不安があるとしたら、ゴルフの調子は悪いという事。調子を戻すにはパターを替えることではなく、体の一部と感じるほどに同じ1本のパターで練習することなんです。14本のクラブの中でいちばん短いのがパター、その芯にボールを当てられないでいちばん長いドライバーの芯に当たるはずがありません。昔、私が使ってたパターはたくさん打ち込んだため、スイートスポットの部分だけが光っていましたね。
替えのパターを何本も持っているとパットの調子が悪いとき、どうしてもほかのパターに気持ちが移るんです。ドライバーのヘッドがパーシモンの頃の話ですが、試合で長年使っていたドライバーのヘッドにひびが入ってしまったことがあったのです。接着剤でなんとか元に戻したのですが、試合の最中にいつ割れてしまうかもしれません。それで新しいドライバーを使ってみたのですが、長年使ったドライバーの感触を忘れることができません。しかし、新しいドライバーになじまなくてはいけません。そこでどうしたかというと、その思いを断ち切るために、ひびの入ったドライバーをドラム缶に入れて燃やしてしまったのです。その後、新しいドライバーに十分なじんだのは言うまでもありません。クラブへの愛着とはそんなものです。でも、それを若い選手にまねしろとは思いません。クラブもボールも進化、今は道具選びのうまい選手が試合巧者なのかもしれません。
われわれの時代は「盗んで学べ」が教えでしたからね。外国の試合に行ったら練習ラウンドも外国人選手が相手でしたよ。技術やコースの攻め方を勉強できてアウェーに強くなれますからね。先日、日韓対抗戦のキャプテンを務めさせていただきましたが、ご存じのように試合は完敗。韓国の選手は試合の二日前からコースに全員集合して練習に励んでいるのに、日本の選手は入りもバラバラ、この時点で完敗ですよ。これは選手に注意を促しているんではなく自分の反省です。今の選手たちは「教えられて学ぶ」時代に育った選手たち。キャプテンの私が「何日の何時に集合」と明確な指示を出すべきなんですね。韓国は金庚泰などが欠場、韓国マスコミは「歯抜けのチーム」と報道したそうですが、S・K・ホは「歯がなければ歯茎でかんでやればいい」と言ったそう。いい言葉ですね。対抗戦はいわばゴルフの戦、国の代表の重みをよく知った言葉です。
1942年千葉県生まれ。64年にプロテスト合格。以来、世界4大ツアー(日米欧豪)で優勝するなど、通算85勝。国内賞金王5回。2004年日本人男性初の世界ゴルフ殿堂入り。07、08年と2年連続エージシュートを達成。現在も海外シニアツアーに参加。08年紫綬褒章受章。
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