しかし、これは少しシニカルすぎよう。イタリアが敗れた後、アンドレア・ピルロとマリオ・バロテッリのほおを伝った涙は、筋金入りのプロのそれではなかった。彼らは、おカネやキャリアのためだけでなく、栄光のために勝ちたかったのだ。
ただコーン=ベンディットはまったく間違っているわけではない。今回の欧州選手権で気づいたことは、敵同士の選手たちが親しい仕事仲間のようだったことだ。彼らは互いに慰め合い、祝福し、旧友や同僚のように抱き合った。トップ選手の大半がスペイン、ドイツ、イングランド、イタリアの同じチームでプレーしている。こうした選手の多くは、国際ビジネスマンのような流暢さで数カ国語を話す。
現在、欧州のトップチームは多国籍化している。選手たちはおカネを追いかける。そしてトップチームはたまたま一番の金持ちでもある。最も気難しく、要求の多い一流選手の一部は、国の代表チームにいるときよりも多国籍チームにいるときのほうが摩擦を起こすことが少ない。
この話に教訓があるとすれば、こうである。共通の旗、言語、国の歴史は、共通の目標に向けて協調することに人々を向かわせる一助となりうる。だが、自己利益も助けになる。芸術であれ、科学であれ、サッカーであれ、最高水準の何かを達成するには、そのことのほうがより重要なのかもしれない。
(週刊東洋経済2012年7月21日号)
© Project Syndicate
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