こうした国々における相互の憎悪や疑念は根深いものだった。しかし、フランスのロベール・シューマン外相は、参事官だったジャン・モネの助けを得て、1950年にECSC設立計画を発表し、「戦争が考えられないだけでなく、物質的に不可能に」することを目指した。シューマンは、フランスとドイツの石炭と鉄鋼の生産を共通の「最高機関」の管理下に置き、双方が相手に対して戦争の原材料を使うことを防ぎ、共通の産業経済を後押しすることを提案した。ECSCは今日のEUの核となった。
今日のEUは窮地にある。だが、欧州の指導者たちが2、3の具体的な措置を取るだけで、EUと地中海地域の経済が回復し、欧州とアジアのエネルギー政策が転換する可能性がある。もし欧州議会と欧州理事会が、全会一致ではなく(それゆえキプロスの拒否権は意味を持つことなく)、特定多数決に従って北キプロスとEUの直接通商を行う措置を取るとしたら、EUは北キプロスと通商を開始することができ、トルコはキプロスと取引を始められる。こうした措置はトルコ、キプロス、ギリシャのエネルギー協力につながり、トルコとイスラエルの和解に向けたインセンティブをもたらしうる。
シューマンプランが固まるには2年を要し、実行までに10年を要したが、この計画は、戦争に引き裂かれてひどく貧しかった欧州の人々に、新たな将来についての前向きなビジョンをもたらした。
これこそ、今のギリシャやキプロスが大いに必要としているものだ。欧州の指導者たちが、見通しもなく緊縮を求めて市民を苦しめるだけでは、危機を克服できない。ギリシャを十全かつ対等なパートナーとして扱いつつ、具体的な措置を取らなければならない。EUにはエリザベス女王はいない。必要なのは第2のシューマンとモネなのだ。
(週刊東洋経済2012年7月14日号) © Project Syndicate
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