26歳でホンダを辞めプロ野球に挑む男の真実 安定は捨てられても、「夢」は捨てられない
一口に「社会人野球」と言っても、野球部員と会社業務のかかわりは企業によって千差万別。午前中に勤務して午後から練習というチームもあれば、夜までみっちり働いてから練習というチームもある。
ホンダの野球部員は、基本的に午前中は会社に出勤し、午後から練習というケースが多い。出社する場合、阿部は埼玉県狭山市にあるホンダの製造工場へ行き、車などをつくるラインに入って作業するという。ただし、野球のハイシーズンは会社に行くことができなくなる。アマチュアといえど、大事な大会前はプロ野球選手に近い環境になるのだ。長谷川監督によると「シーズンオフは一日勤務する時期もあるので、年間40%は勤務している計算になります」という。
毎日現場で働いている社員と野球部員の「温度差」が気になってしまうが、ホンダは一般社員と野球部の距離が近い企業だといわれる。長谷川監督が明かす。
「野球部員でも、いずれ野球を引退したときのために現場のことがわかっていないといけません。配属先の業務を手伝ったり、従業員のみなさんに仕事を教えてもらったりすることで人脈をつくり、野球部のファンを増やしていく。現場の社員に『野球部の応援に行こう!』と思ってもらえたら、いい相乗効果になります」
入社3年目。ついに、努力が実を結ぶ
阿部も「部署の方は温かく見守ってくれます」と現場との良好な関係について語っていた。阿部は結果を出せなかった最初の2年間で、近い将来に社業に専念するイメージを持ち始め、「どの部署に配属希望を出そうか?」ということまで具体的に考えていた。
運命が大きく変わったのは入社3年目のことだ。それまでにチームのベテラン・多幡雄一に弟子入りし、毎日自主練習を共にするようになっていたのだが、その努力が実を結んだ。
「多幡さんから『お前は右方向のほうがいい打球が行く』と言われて、ボールを引きつけて強く叩く練習を繰り返していました。そうすると、右方向に強い打球が打てるようになってきて、体が早く開くクセも目立たなくなったんです」
一時的に不安定になっていた遊撃守備も、外野や打撃投手を経験して腕を強く振る感覚、リリース感覚を取り戻すことができた。「なにごとも自信がない」というネガティブ思考の阿部だが、大学時代にはスイングのしすぎで肋骨を疲労骨折したほどの努力家でもある。野球人生最大のピンチでも、自信がないからこそ猛練習で補うことができた。
そして社会人4年目となった今年、阿部のもとにはプロ球団からの調査書が届いた。長谷川監督はプロ志望の選手に対して、こんな話をするという。
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