急浮上する原潜保有論・その実現可能性は(後編)/建造能力、母港決定・地上施設の建設、社会の容認…保有までにハードルが高くそびえる

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対して、日本製には実績はない。歴史的経緯から横須賀市は海自を信用するだろう。ただ、日本の原子力技術はそうではない。しかも、なし崩しに廃艦時の原子炉や放射性廃棄物の保管場所にされる可能性は高い。

大湊(青森県)は門前払いする。1969年に進水し、試験航海中に放射線漏れ事故を起こした原子力船「むつ」(1992年解役)の記憶があるからだ。そもそも、当の大湊基地が「不可能」と報告する。

原子力船「むつ」の前例

掃海訓練、浚渫(しゅんせつ)、化学兵器処理に際しては、むつ湾漁業振興会に協力を求める関係にある。その連合会の始まりは原子力船「むつ」の放射線漏れ事件である。そのときに、生活を守るために関係漁業が団結して結成した組織である。

いつもの補助金政策は悪手でしかない。原子力の面倒を下北半島・青森県に押し付けようとしている。それを見透かされれば県民は反発する。そうなると防衛省・自衛隊との関係も悪化する。大湊だけではなく、三沢基地や八戸基地(いずれも青森県)での信頼関係も損なわれる事態となる。

陸上関係施設はさらに厳しい。陸上原子炉の設置は必須である。原潜開発では試験炉は陸地に置く必要がある。いきなり潜水艦に搭載するのは無謀であるし、効率的な試験もできない。別途に、乗員訓練のための実習用原子炉も用意しなければならない。実用原潜の数は高額であり限られている。作戦用の原潜を減らして訓練専用に使う余裕はない。

この原子炉を受け入れる自治体はない。そもそも商業用原発にしても、新設どころか再稼働も厳しい。潜水艦用原子炉の条件はそれよりも悪い。雇用や補助金で劣るうえ、無理をして小型化しているので安全性や信頼性も怪しい。

炉心交換、解体は絶望的である。実施は造船所となるが、たいていは都市部にある。しかも潜水艦を扱えるのは神戸の2カ所に限定される。構造、溶接法、品質管理が特殊であり、対応した関連産業があるのは神戸だけだ。だが、京阪神という人口集中地域の中の大都市の一つだ。原子力災害のリスクにさらすことはできない。

放射性物質の保管は言うまでもない。保管に手を上げる市町村はない。仮に出てきても隣接自治体や県が反対する。

原潜整備は最後の段階では行き詰まる。原潜建造を決定し、研究製造に着手しても陸上原子炉設置や母港を決める段階で袋小路となる。

この技術的問題と社会的問題からすれば、原潜整備には現実味はない。たしかに原潜は問題解決の手段として優れている。日本が進めている海軍戦略には最適とも言える。ただ、実際に原潜が建造できるのか、社会がそれを許容するのかは別の問題なのだ。

(「急浮上する原潜保有論・その実現可能性は(前編)」へ)

文谷 数重 軍事ライター

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もんたに すうちょう / Sucho Montani

1973年埼玉県生まれ。1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。ライターとして『軍事研究』、『丸』等に軍事、技術、歴史といった分野で活動

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