ルーブル美術館もアメリカの国立公園も導入 世界で加速「二重価格」の波は日本でも広がるのか?

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次に「二重」の境界ラインをどこに引くかである。国籍が日本なのか、日本居住者なのか。またその場合、「安くなる方が自らその証明を提示する」という原則に則れば(例えばシルバー割引の場合、年齢のわかるものを提示すると割り引かれる)、日本人(あるいは日本居住者)であることを証明する必要がある。一番手っ取り早いのは、健康保険証も運転免許証もマイナカードに統一されつつある昨今、カード提示を割引の条件とするのが最もシンプルだ。

3つ目に気にかかるのは、こうした二重価格は「外国人が値上げされるだけで自分には関係がない」と思っている人が大半かもしれないが、実は日本人にも影響する可能性がかなりあるということである。

外国人の割合が高い場所などは、二重価格を実施すればその分収入も増えるが、コロナ禍で明らかになったように、インバウンドは永続的に続くとは限らない。

昨年11月からの中国政府による渡航自粛のような事態や戦乱等で渡航がかなわなくなる国も今後出てこないとは言いきれない。そのために減収になれば、予定した費用がまかないきれなくなるため、やむなく「全体」を値上げするということも考えられる。つまり、日本人の価格も上がる可能性があるのだ。

姫路城の入場料は姫路市民だけが割り引きになる

また、施設によっては二重価格の線引きを地域住民に限るところも出てくるだろう。地方自治体が管理・運営しているところではその傾向が強いと思われる。今年3月から姫路市民だけ入場料を割り引くことになった姫路城の例がわかりやすい。

姫路市では、日本人と外国人との二重価格の導入を議論し、最終的には外国人かどうかの判断は難しいと、そのラインを姫路市民と市民以外で分けた。その結果、姫路市民以外の日本人と外国人の入場料は、現状の1000円から2500円へと大きく引き上げられる。

こうした例はほかにも登場するだろう。二重価格に対してあまり深く考えないで賛成していると、自分に跳ね返ってくるかもしれないのだ。

また、富裕層のインバウンドならば数千円の値上げは大したことないと思われるが、欧米系のインバウンドは2週間以上など長めに日本に滞在し、何十カ所も観光施設に入るであろう。

それらがすべて何倍も値上がりすれば、負担は大きくなる。各自の観光の総予算が決まっている以上、その分、ほかのところで節約することになる。お土産の売り上げにも影響するかもしれない。

私たちもルーブル美術館が6000円近くになれば、来る機会はあまりないと割り切ってそこは我慢して支払うかもしれないが、ほかの部分を節約するかもしれない。つまり、インバウンドの滞在全体の費用が変わらなければ、別のセクターではマイナスになる可能性もあるということである。

二重価格の流れは、ルーブルやアメリカの国立公園といった知名度の高い施設で行われることで、今後は各地で一層強まるかもしれない。しかし、それは観光という国を超えた相互交流の機会にブレーキをかけかねない面もある。

アメリカに象徴される「自国ファースト」が観光にも及んだとき、それが世界全体にとって幸福な方向といえるのかどうか、観光にかかわる人だけでなく、私たち一人ひとりが問われているのかもしれない。

佐滝 剛弘 城西国際大学教授

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さたき よしひろ / Yoshihiro Sataki

1960年愛知県生まれ。東京大学教養学部教養学科(人文地理)卒業。NHK勤務を経て、高崎経済大学特任教授、京都光華女子大学教授を歴任し、現職。『旅する前の「世界遺産」』(文春新書)、『郵便局を訪ねて1万局』(光文社新書)、『日本のシルクロード――富岡製糸場と絹産業遺産群』(中公新書ラクレ)など。2019年7月に『観光公害』(祥伝社新書)を上梓。

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