2兆円企業ニデックを築いた永守氏が見落とした《エフェクチュエーション》の死角、予測不能な時代にAIではなく「経営の神様」が求められるワケ
ところで、「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助氏が創業したパナソニック ホールディングスが、いま苦戦している。26年3月期内に行う国内外1万人規模の人員削減に対して、世間の反応は複雑だ。「松下幸之助なら、そんなことはしなかったのではないか」。そうした声はいまも少なくない。
2025年6月に開かれた定時株主総会で、(1929年=昭和4年の世界恐慌で経営環境が厳しくなったときも「人は1人も減らさない」と宣言したとされる)「松下幸之助の精神に反するのではないか」と質問された際、楠見雄規社長は次のように述べた。
「創業者のエピソードは非常に重い意味があるが、当時と事業環境が大きく異なるのも事実だ」
「非常に重い意味」を海外でも誇示したのが、2025年1月にアメリカのラスベガスで開催された世界最大級のテクノロジー見本市「CES(Consumer Electronics Show)2025」での出来事だ。楠見社長が基調講演のため登壇し、スクリーンに松下幸之助の写真を映し出した。創業理念を大切にしている姿勢を示す演出だった。
この演出を見て、CESを取材し続けているベテランジャーナリストは「なんだかなー」と白けていた。会場での評判も芳しくなかったのか、26年1月の「CES 2026」では、過去を振り返るのではなく、“The Future We Make”をテーマに、AI(人工知能)を活用したB2Bソリューション分野の製品を中心に展示した。
それでも「神様」を求める日本人の心性
松下幸之助氏が卓越した経営者であったことを疑う余地はない。製品開発、販売網の構築、人材育成、企業理念の言語化など、彼が残した足跡は日本の企業史そのものといってよい。
しかし、その成功は、高度成長期という時代背景と切り離して考えることはできない。人口が増え、市場が拡大し、国内中心で事業を回せた時代だったからこそ成功した経営者も多い。
現在の経営環境は大きく異なる。それでもなお、日本で「経営の神様」という言葉が、今も「経営史に残る卓越した経営者」として認識され続けているのはなぜか。
それは、「並み(以下)の経営者」のほうが圧倒的に多いからだろう。いまやその主流を形成しているのが、ROE(自己資本利益率)やROIといった資本効率指標ばかりを口にする財務偏重の経営トップである。
口では「三方よし」を語りながら、経営者の成績表と化した時価総額ばかりを気にしているように見える。自身の経営哲学や従業員の心を揺さぶるストーリーを文学性に富んだ言葉で語り、親分的魅力を感じさせるリーダーがあまり見られなくなってしまったのだ。


















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