「結婚できないかわいそうな人」——介護現場で続いた"シングル・子なし"へのモラハラ。多様性拒む「家族前提」が生む分断

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職場に管理栄養士は2人いて、シフト制だった。もう1人の管理栄養士は子育て中で、子どもの行事などを理由に土日は休みをとり、平日でも急に休むことが多かった。さらに2人目を妊娠し、産休を取ることになったので、その間はAさんが1人で仕事を回した。

妊娠や育児で仕事の調整が必要になることは仕方がない、とAさんも思う。けれど、休むのが当然と思っている彼女の態度や、職場復帰してきた時もお礼の言葉がなかったことがモヤモヤする。

会社は子育て世帯に寛容だった。だからこそ、暗に、自分がシングルだから、子育ての大変さが分からないと思われているように感じることもあった。

「子育てを理由に休むのはウェルカムで、『子どもの行事に行くので、今から抜けます』というのはいいけれど、独身の私が『家のことをしにいく』と抜けるのは認められない。同僚は何度も休んでも、子育てが理由ならペナルティは一切なく、むしろ子育てしながら仕事しているだけで評価される。

私は1人で仕事を回して大変なときもあるのに、評価されない。納得がいかない、と上司に訴えても、ひがんでいるように取られるだけ」(Aさん)

新しい職場は空気が違った

「結婚しなよ」「老後に独りになっちゃうよ」「孤独死するよ」「同僚の介護職で誰か見つけなよ」……。

職場でそのような言葉を何度もかけられたAさんは、やがて自分の本心とは関係なく、結婚や出産を求めるようになっていった。合コンや婚活パーティーに参加したり、好きでもない男性と付き合ったり。

だがその後、別の医療機関に転職すると、これまでの悩みは一切なくなった。新しい職場で働く人たちは同僚のプライベートには関心がなく、ライフスタイルも多様でお互いに認め合っているようだった。介護施設で働くより報酬が高いため、金銭的に余裕があることも影響しているのかもしれない。

「前は結婚をしていないと、何をやってもダメかなと思っていたんですが、ここでは仕事をやったらやっただけ、みんなの評価が変わる。挑戦したことをちゃんと評価してもらえるので、仕事が楽しくなりました」

今は、子どもがいない人生でいいと思っているという。

「いろいろな圧をかけてきた人たちのために生きているわけじゃないし、自分が幸せになることを考えて生きよう、と思えるようになりました」

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