1400億円が紙くずになった事例も…金融機関が富裕層に積極的に売り込んでいる「CoCo債」って? 思わぬ"落とし穴"を資産運用のプロが暴露

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発行体の自己資本比率が一定の水準を下回った場合や、監督当局の決定などにより、強制的に元本が削減されたり、株式に転換されたりする特性もあり、株式(資本)と債券(負債)の両方の性格を併せ持っています。

2023年に起きた「AT1債ショック」の“主犯”

いきなり説明しましたが、このCoCo債と前回の記事でご紹介した「仕組債」には共通点があります。

それは、「平時には高利回りを享受できるが、有事には想定外の損失リスクが顕在化する」点です。

2023年、スイスの大手金融機関であったクレディ・スイスが発行したCoCo債の一種、AT1債が紙くずになりました。

当時のクレディ・スイスは、ブルガリアの麻薬組織によるマネーロンダリングを巡って有罪判決を受けたり、モザンビークでの汚職への関与やスパイ・スキャンダルが報じられたり、顧客データのメディアへの大量リークが起きたりするなど、深刻な不祥事が相次いでいました。

そんな状況でさらに、破綻したイギリスの金融ベンチャーの創業者や、同じく破綻したアルケゴス・キャピタル・マネジメントとの関係が明らかになったことで、内部統制の甘さが浮き彫りとなり、前例のない規模での顧客と資産の流出が発生しました。

株価も暴落し、最後には同じスイスの大手金融機関UBSが救済することになりました。

このとき、スイス当局の決定で、クレディ・スイスが発行していた約170億ドル(当時のレートで約2.2兆円)相当のAT1債が一夜にして紙くずになったのです。

UBSが買収したことで、株式には一定の価値が残ったにもかかわらず、債券であるAT1債が真っ先に無価値にされ、投資家に衝撃を与えました。本来、株式よりも債券のほうが優先順位は高いはずなのですが、契約上、AT1債は非常時に株式より劣後すると定められていたためです。

この「AT1債ショック」では、日本の投資家も大きな損害を受けました。

金融庁によれば、クレディ・スイスのAT1債は日本国内でも富裕層や法人を中心に約1400億円が販売されていたことがわかっています。

この1400億円分は丸ごと紙くずになったはずです。

こうした特殊な債券を、金融機関は「富裕層のお客様でないと買えない特別な社債です」などと希少性をアピールしつつ売ります。

また、「格付けも低くなく、滅多なことがない限り安全です」と説明しがちです。

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