「乳酸」は"疲労物質"じゃなく"脳のエネルギー源"。認知機能向上やうつ症状改善作用の可能性も――体に疲れをもたらす真犯人の正体は?
例えば、神経から神経へと電気の流れを良くするスイッチとなったり、新しい神経を作るスイッチを押す働きがあることがわかってきました。
乳酸のこのような作用は、記憶を司る海馬という部位の神経でも起こります。そのため、認知機能の向上やうつ症状の改善に役立つ可能性が期待されています。
また作られた乳酸イオンのうち2割程度は、血液から肝臓へと取り込まれ、ブドウ糖へ変換された後、再び血液中へ放出されます。これを糖新生といい、低血糖を防いで生命を守る重要なシステムの1つです。
例えば、長時間運動をして、血液中のブドウ糖が筋肉で使われて血糖値が低下した際に、この乳酸を利用した糖新生が役立ちます。
先に述べたように、血糖は脳が使える主要なエネルギー源です。そのため、血糖値が低下すると、脳はエネルギーを作ることができず、活動が低下してしまいます。最悪の場合、意識を失ってしまい、生命が危険にさらされます。
しかし、この糖新生のシステムにより、血液中の乳酸イオンを糖に変換できるため、筋肉や脳に供給する血糖を維持することができるのです。
このように、かつて疲労物質として認識されてきた乳酸は、エネルギーとして利用できる有用な物質と認識が改められるようになりました。
最近では、アスリートの現場や研究機関で、血液中の乳酸濃度を測定し、エネルギーの再生産が順調にできているかを評価する指標として使われたりもします。さらには、乳酸イオンをサプリメントとして摂取する試みもあります。乳酸がエネルギー源となる特徴を活用し、疲労を抑えたり、持久力を高めたりすることが期待されています。
そもそも疲労とは何か?
乳酸が疲労の原因でないとわかりました。それでは、疲労とは何なのでしょうか?
皆さんは、理科の授業で、水溶液のpHを調べる実験をしたことがあるのではないでしょうか? pHが7を下回ると酸性、上回るとアルカリ性です。
先ほど、運動することで乳酸、つまりは乳酸イオンと水素イオンが作られると説明しました。この水素イオンを水溶液中に加えていくと酸性化していき、pHの値は低くなります。激しい運動をすると、筋肉で水素イオンがたくさん作られ、酸性化するのです。
一方で、私たちの体の水分(体液)は、弱アルカリ性に保たれています。これが少しでも酸性に傾くと、エネルギーを作るシステムが働かなくなり、筋肉の収縮ができなくなってしまいます。これが疲労の原因です。



















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