「乳酸」は"疲労物質"じゃなく"脳のエネルギー源"。認知機能向上やうつ症状改善作用の可能性も――体に疲れをもたらす真犯人の正体は?
しかし、酸素の供給が不足した状態では、ピルビン酸から乳酸が作られます。強度の高い運動をすると、筋肉で必要とされる酸素が足りず、酸欠状態になります。その結果、乳酸がたくさん作られるのです。
この乳酸とは、厳密にいえば乳酸イオンというマイナスイオンです。乳酸イオンは、発生時に一緒にプラスイオンである水素イオンとくっついた状態で生じます。しかし、その後すぐに乳酸イオンと水素イオンに離れ離れになり、それ以降は別々の運命をたどります。
乳酸はエネルギーになる
血液中の乳酸イオンは、安静にしているときでもわずかに検出されます。座位中心の生活では、血液乳酸イオン濃度が上がることはありませんが、強い運動を行うと、瞬く間に上がります。
つまり、血液中の乳酸はほぼ筋肉に由来するものです。筋肉で作られた乳酸イオンの半分以上は、血液へ放出されます。そして再び全身の細胞へ取り込まれて、実はエネルギー源としてもう一度利用されているのです。
例えば、自転車をこぐときは、主に太ももの筋肉を使います。そこで乳酸イオンが作られて血液中へ出ていきます。血液の流れに乗った乳酸イオンは体内を循環するうちに、自転車こぎではそれほど使わない腕や胸の筋肉や、内臓、脳などで取り込まれて再利用されるのです。
脳のほぼ唯一のエネルギー源はブドウ糖です。
脳は生命の維持に関わり、全ての高次機能を司ります。重要な臓器なので、脳と血液の間には血液脳関門というバリアがあり、物質が無秩序に侵入するのを防いでいます。
ウイルスや細菌のような有害物質はもちろん、血液中に存在するほとんどの物質も脳へ入ることができず、エネルギー源となる脂肪酸であってもほとんど入ることができません。
しかし、このバリアを潜くぐり抜けられる数少ない物質に、ブドウ糖と乳酸があります。そしてこれらは、脳の神経細胞でエネルギーとして利用されるのです。
運動をすると、筋肉が血液中のブドウ糖の多くを消費するので、脳で利用できるブドウ糖が少なくなってしまいます。そこで、代わりに筋肉から出てきた乳酸を利用して、脳の働きを維持しているのです。
脳に取り込まれた乳酸は、エネルギーになるだけではありません。脳の中の神経に作用して、さまざまな働きを調節する物質としても働きます。



















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