釧路湿原だけじゃない…再エネ発電施設が生態系に与える深刻な影響

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現在は灌漑設備ができて米作の問題はなくなり、道路網が整備されて魚や鶏肉は通年、手に入る。それでも習慣で続いていたサシバ猟。それが激減したのは、「サシバを撃たないで」というキャンペーンが子どもたちを通して地区の大人たちに伝わったからだ。

地元の小中学校で保護団体がサシバの生態や生息数が世界で激減していることについて話した。また、一大地場産業であるココヤシの生産組合から「サシバが春先にココヤシの害虫を食べてくれるので助かっている」という声が上がり、サシバを守ろう、という流れにつながった。

アレックスさんは「私たちはグリーンエネルギーに反対している訳ではなく、発電施設の建設地を渡り鳥が来る中継地や保護区、公園のエリアから離してほしい、と願っている。しかしルソン島南部では風力発電所の建設が始まり、道路拡張で古木が伐採されたが、環境団体の声は無視されたので、楽観していない。私たちはこれから、研究者や専門家に声をかけ、働きかけていきたい」と話している。

サシバの成鳥。日本はサシバの繁殖地。4月~9月に日本で過ごした後、南の越冬地に向かう(撮影:鈴木邦彦氏)

国際協力やデータ共有が必要という声

国際サシバサミットの「研究発表概要」を読むと、台湾の自然保護団体も再生可能エネルギーの課題に触れている。

台湾猛禽研究会の楊建鴻さんは「再生可能エネルギー政策の進展に伴い、適切に計画されていない風力発電や太陽光発電施設は、渡りのルートや生息地に脅威を及ぼす可能性があり、新たな保全上の課題となっています。エネルギー転換をめぐる問題は台湾だけにとどまらず、フライウェイ(渡りのルート)沿いの他国でも共通しており、効果的な保全戦略を実現するためには国際協力やデータ共有の重要性が一層高まっています」と書いた。

楊さんは続けて、渡りを行う猛禽類の保全は、調査研究に加え、政策、市民参加、ボランティア活動、国際協力があって成り立つ、という趣旨のことを述べている。

どうしたら自然生態系への悪影響を抑えつつ、再生可能エネルギーの利用を拡大していけるかという課題は、学術的研究や調査の枠を超えた住民、自治体や政府の行政担当者、政治家、ボランティアなど多様な人々の参加と国際協力がなければ解決できないだろう。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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