『原発不明がん』発症した夫がわずか160日で他界、救うすべはなかったかーー。妻が主治医にぶつけた「最大の疑問」と受け入れ難い"答え"
ある日突然、最愛の夫が原因不明の腹痛に襲われ、衰弱していった。3カ月後に判明した病名は「原発不明がん」。原因が特定できないまま、余命わずか数週間と告げられ、夫は帰らぬ人に――。
書評家の東えりかさんは、夫・保雄さんがこの原発不明がんに侵されてから亡くなるまでの約160日間にわたる記録を、『見えない死神 原発不明がん 百六十日の記録』(集英社)に記した。
結局、原発不明がんとはなんなのか。自分が、病院が、もっとできることはなかったのだろうか。東さんは本書のなかで、疑問の数々を保雄さんの主治医・都立駒込病院の奥屋俊宏医師にぶつけている。奥屋医師と東さんの対話の様子を、抜粋してお届けする。
がん細胞が見つからない限り『がん』の診断はできない
原発不明がんの発生頻度をデータから説明してもらうと、がん患者10万人あたり5人から19人(0.005〜0.019%)。男女差はなく、発症の平均年齢は65歳くらいだという。原発巣が胃だと仮定すると、転移先は通常、肝臓や肺に見つかることが多い。だが腹膜への転移も一定数あることは確認されているそうだ。
保雄は3カ月も腸閉塞が治らなかったのだから、その原因として腹膜播種を想定することはできなかったのか。そう問うてみると、「原則としてどんな病院でも、がん細胞が見つからない段階では『がん』という診断はできないし、しません」という答えが返ってきた。
病気の治療は原因解明から始まる。とくにがんは、まずがん細胞の発見ありきで治療方針が決められるそうだ。実際の症例も教えてくれた。
「自分のところにも、原因不明の腸閉塞の患者ががんを疑われて来たことがありますが、この時は細菌感染の腹膜炎でした。抗がん剤の投与は白血球を減少させて免疫機能を低下させてしまうので、感染症の患者に誤って抗がん剤を投与すると感染症を悪化させ、命の危険をもたらす場合もあります。これは致命的なミスになりえます」
知人や友人など、腸閉塞を起こしたという話は珍しくない。そのため、当初は私たちもある意味で楽観視してしまった。いま思うと、大きな落とし穴がそこにあったのだ。奥屋医師はそれについても説明を続けてくれた。
「腸閉塞の原因には多数あって、良性疾患が一定数交じっていることを頭に入れておかなくてはなりません。最初に搬送されるのは一般消化器外科ですが、そこで詳細に検査するのは病因によって治療法がまったく違うからです。東さんは何カ月も検査だけ行われて、治療も方針も決まらずにさぞ不安だったということですが、ここは慎重のうえにも慎重を期さなければなりません」



















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