『原発不明がん』発症した夫がわずか160日で他界、救うすべはなかったかーー。妻が主治医にぶつけた「最大の疑問」と受け入れ難い"答え"
本当のところ、保雄の抗がん剤治療が成功する可能性はどれくらいだったのか。
原発不明がんは、予後が悪いものが8割
「最初に診断して検査結果が出た時から、摑みどころのないがんであるという印象でした。こういうがんは、かなり特殊な原発不明がんで予後は悪いだろうと推測できました。そもそも、前の病院で見つかったのが腹水から、というのが特殊です。腹膜に播種(転移)しているがんは卵巣がんや卵管がん由来であることがほとんどで、それゆえ、腫瘍マーカーの検査をするのは通常女性だけです。つまり、患者が男性だった場合、がんを見つけることが困難になります。
これも大変専門的な話になりますが、今までお伝えしたように、腹膜だけにがんがある場合は、基本的に女性特有のがんです。これはミュラー管という女性にしかない部位から発生するためではないかとされています。一方で男性も極めてまれですが、腹膜を構成する細胞からミュラー管由来のものに似た性格を持つがんが発生することが、症例報告レベルで示されています。それは女性の腹膜由来のがん(腹膜がん)と比較して予後が悪いと言われていますが、腺癌です。
つまり、腺癌ならば腹膜播種はある程度想定される転移先でした。例としてスキルス胃がん (腺癌)などではメジャーな転移先ですが、東さんのような扁平上皮癌の腹膜播種は珍しく、 他の治療例との比較ができにくかったことは確かです。ただ、原発不明がんであれば、扁平上皮癌のほうが腺癌と比較すると抗がん剤の治療感受性があるとされています。全身の状態は良くなかったのですが、東さん本人が抗がん剤治療に非常に意欲的でしたので、試す価値はあると判断しました」
抗がん剤治療が受けられると判断された後、保雄はとても元気になった。一縷の望みであったとしても、自分の携わってきた抗がん剤研究の仕事は裏切らないというプライドもあったと思う。
「しかし実際に試してみると、最初こそ少し希望が持てましたが、すぐに臓器全体の値が悪くなり、それを防ぐ方法は見つかりませんでした。恐れていた感染症も発症してしまいました」
抗がん剤治療は私たちにとって、最後の賭けだった。成功すれば、再び日常が戻ってくるのではないかと淡い期待を抱いていた。
「原発不明がんは予後が悪いものが8割といわれています。治療が成功して比較的予後が良いといわれる残り2割の余命も、乳がんで5年、腹膜がんで3年、腎細胞がんで1、2年と非常に厳しいのです。予後の悪い8割の原発不明がんは、20年前から余命の中央値(50%の患者が亡くなるまでの期間)は 4.3カ月から4.5カ月。この間、治療効果はほとんどあがっていません」
まさに保雄の発病から亡くなるまでがそのとおりの時間だった。
『見えない死神 原発不明がん、百六十日の記録』の刊行を記念して、2025年12月20日(土)に大阪の隆祥館書店でトークイベントを開催いたします。
ゲストは大阪大学名誉教授の仲野徹さん、テーマは「『原発不明がん』『希少がんホットライン』、人生の最後の時間をどのように過ごすことが幸せなのか?」です。
詳細は以下URLよりご確認ください。https://note.com/ryushokanbook/n/n0a73f3df4476
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