『原発不明がん』発症した夫がわずか160日で他界、救うすべはなかったかーー。妻が主治医にぶつけた「最大の疑問」と受け入れ難い"答え"
それにしても、検査に3カ月もかかるというのは普通のことなのだろうか。原因特定にそんなに時間がかかれば、悪化するのは目に見えているのに。
「原因特定のため、前の病院で行った膨大な数の検査を詳細に検討しましたが、いずれもどうしても行われなくてはならないものばかりでした。もし最初に当院に来たとしても、同じ検査をしたでしょう。実際、あの詳細なデータがあったから、すぐに抗がん剤治療に踏み切れました。“後医(こうい)は名医”という慣用句がありますが、患者を最初に診た医師よりも、後に診た医師のほうがより正確な診断や治療ができるのは当然です」
続けて奥屋医師は保雄の治療について、こう説明した。
「通常、東さんのような消化管の閉塞を伴うがんで、全身状態が悪い場合は、感染症のリスクが高いことから抗がん剤治療の選択をせず、即、緩和ケアに移行する判断を下す場合が多いかもしれません。
しかし今回は、抗がん剤が効きやすい扁平上皮癌であると推定して、治療効果が期待できると考えて踏み切りました。とはいえ、消化管が閉塞している原発不明がんで、抗がん剤の治療効果によってその部分が開通して食事がとれるようになった患者は、残念ながらひとりしか診たことがありません」
特殊ながんばかり診ている奥屋医師でもそうなのか、と感じたのと同時に、でもひとりはごはんが食べられるほどに回復したのか、と羨む気持ちにもなった。
果たして、夫はがんの症状に気づかなかったのか
ここで最大で、そして私の罪悪感の根源にもなっている疑問をぶつけた。まったく予兆無く、スポーツクラブで激しいトレーニングをした直後に発症するなんてことがあるのだろうか。自分の体調にあれほど神経質だった保雄が気づかなかったのはどうしてなのか。
奥屋医師はあくまで一般例だが、と断りつつ答えてくれた。
「確かに今回の病態は非常に突然に思えるかもしれませんが、もしかしたらそれまでも、例えば便秘とか軽い腹痛とか、軽微な症状があらわれていたのかもしれません。本人は自覚していなかった、あるいはすぐに治ってしまったので気にしていなかったことが考えられます。重症であるがん患者でも、ギリギリまで症状の出ない人は少なくないんです。
健康を過信しているわけでなくても、多少のことは回復すれば忘れてしまう。頭痛や腹痛は軽く考えられがちなんです。少しの痛みなら奥さんには言うまでもないと思って黙っていた可能性も捨てきれません」



















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