賛否両論ありながら…。それでも細田守監督《果てしなきスカーレット》が正月映画興行の"大本命"であるワケ

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本作でまず驚かされるのが、圧倒的な迫力の映像美だ。荒野のような「死者の国」をさまようスカーレットのオープニングシーンの3DCG映像で、まるで実写のような物語の世界に一瞬にして惹き込まれる。

しかし、ずっとそのテイストではない。スカーレットが生きる中世デンマークの街並みや、そこでのシーンの多くは2Dアニメーションであり、「死者の国」の描写や戦闘アクションでは2Dと3Dが入り混じる。

これまでにも、シーンに応じて最適な表現手法を取り入れている細田監督だが、本作でもそれを追求していることが予想される。その独特な世界観を強烈に放つ本作のビジュアルは、これまの作品以上に心を引きつける力がある。

『サマーウォーズ』や『竜とそばかすの姫』の世界が、明るさのあるメジャー音程なら、怖さや不気味さがにじむ本作の「死者の国」は、暗い音色が響くマイナー音程。不穏な空気に包まれる映像世界なのだが、そこで凛として輝くスカーレットが異彩を放っている。

果てしなきスカーレット
(C)2025 スタジオ地図

中世デンマーク×現代日本が映す世界情勢

そんな本作が伝えるテーマのひとつが、多様性の理解と共生だ。

王女のスカーレットと看護師の聖は、中世デンマークと現代日本という時空を超えて「死者の国」で出会う。そこは、時間、時代、社会、国境、人種、文化などあらゆる種別を超えて人が集い、あらゆる属性の人が争いながら生きる場所だ。

誰もがそれぞれの苦悩と葛藤を背負って対立し、いちるの望みを胸に、ただ「見果てぬ場所」を目指してお互いに争い合い、傷つけ合っている。そこは、世界中で紛争や戦争が繰り返される、現代の世界情勢をデフォルメした世界になる。

その地獄のような「死者の国」が、われわれが生きる世界の縮図であることに誰もが気づき、そこで起きていることを目の当たりにすることで、争いの無益さや、平和の尊さに思いが及ぶに違いない。細田監督のそんな思いを感じ取れる。

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