JWマリオット東京が高輪ゲートウェイシティにオープン。再解釈された日本文化は何を示すか

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日本的な抑制の美学はそれだけではない。JWマリオット・ホテル東京屋内の照明計画を考えるにあたってヤブ・プシェルバーグが引用したのが谷崎潤一郎が『陰翳礼讃』で語った暗がりや影を大事にする美学だ。「日本の元来の価値観では、暗さや影の中にこそ美しさを見いだしていた」とプシェルバーグ。明る過ぎる照明が当たり前の日本の一般的な施設では、すっかり忘れ去られてしまった日本的美学かも知れない。

さらに日本的ストーリーを組み込んだ工夫もある。

例えばフロントの頭上には鎌倉彫りをイメージした天井装飾が飾られており、このホテルの目の前から伸びているJR東日本の電車に乗れば、すぐに古都、鎌倉にもアクセスできることを示唆してくれている。

ただ、ヤブ・プシェルバーグが、こうした日本の伝統美以上に重視したのが「自然との対話」だ。

フロントデスク天井
東京から最も近い古都、鎌倉を代表する伝統工芸、鎌倉彫りをイメージしたフロントデスク天井の飾り©️Photography courtesy of Marriott

都市と自然の間の橋渡し

「このホテルの基本的なデザインの前提は、人間と自然との対話です。都市と湾、森へ行くこと、箱根へ行くこと、そういったことです」とプシェルバーグは語る。「だから、とても力強い建築的なフォルムや格子が見えると同時に、とても有機的で自然をベースにしたものも見えるのです」。

品川という場所は、まだ開発途上の新しい街だ。JR東日本が所有するこの土地は、鉄道網を通じて人々を郊外へと連れ出すことができる。「このホテルは、人工的に作られた構築された世界と自然との間の橋渡しなのです」とヤブは説明する。

彼らが30年以上前に箱根の伝統的な旅館に宿泊した経験は、今でも彼らの仕事の原点になっているという。「外は現代の世界が広がっているのに、一段上がって伝統的な家に入ると、現代世界のすべての思考を取り除いて、過去に戻るのです」とヤブは振り返る。「そして女将さんに世話をしてもらう。彼女は私たちが何をすべきか正確に知っているんです。それが究極の静かなラグジュアリーでした。とても稀有な体験で、私たちは今日の仕事においても、小さな形でその経験を常に参照しています」。

この自然への敬意は、客室のデザインにも表れている。すべての客室は不規則な形をしており、完璧な長方形ではない。「美しさは不完全さの中にあるのです」とヤブは語る。「正方形のテーブルでも完璧な円形のテーブルでもない。この角度はあの角度と少し違う。それが自然の中にある美しさだと思います。ただし、高度に機能的でなければなりません。日本では施工品質が非常に高いので、それができるのです」。

プシェルバーグは彼らが考える「静かなラグジュアリー(Quiet Luxury)」という概念の重要性を強調する。「感性が若い人たちは、過度な装飾を求めていません。確かに彼らはシックでスタイリッシュなものを好みますが、それを過剰にアピールする必要はないのです」。

このホテルは、まさにその思想を体現している。厳選された素材、計算された影の使い方、あえて取り入れた非対称性、予期しない要素——こうした細部の積み重ねが、訪れる人の心をくすぐり、そこで過ごす時間に豊かさを生む。

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