クマ被害が止まらない東北、過去10年で少子化「ワースト5入り」の厳しい現実

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結婚していて当たり前だった世代の高齢者ほど、少子化というとお母さんが産まなくなる、という発想になりやすいが、地方では「若い女性が山を降り、里をも去る」ことが少子化に大きな影響をもたらしている。就職で去って地元にいない女性から地元の結婚は発生しないし、当然、子も生まれないからだ。

日本全国、未婚化(婚姻減)が少子化の主因である状況は同じであるが、女性雇用に魅力がないエリアほど、「女性が去っていくために少子化が加速している」状況にあるというのが、統計的実態となる。つまり、出生減が起こる前に、若者(若年女性)減が起こっている。そうなると、残された人口の高齢化はさらに角度がついて加速する。

クマに対応しようにも高齢者ばかり

クマに対応しようにも、ヒトが少ない以前に、高齢化していてパワー的に対応に苦慮することになる。2020年国勢調査で人口構造を調べてみると、20代を中心に転入超過にある埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県は40代人口が最も多く、ついで50代人口が多い。

一方、宮城県を除く東北各地は、60代人口が最も多く、ついで70代人口が多い。最多人口ゾーンに20年もの格差が生じてしまっている。宮城県も最も多いのは40代人口であるものの、ついで60代人口となっている。これでは強靭な肉体を持つ猛獣のクマとの生存競争において、あまりにも不利である。

地方の深刻な少子化は「若者(特に女性)が就職で去ること」で起こっている、という正しい認識がもっと広まれば、東北で活発化している獣害が、「ヒトは働ける場所を探して都会に移動し、クマはエサを探して里に移動する。ヒトもクマもよりよく生きるために同じような行動をとった結果」であることに気づくはずである。

1996年に女性の転入超過によって東京一極集中が発生してはや29年。
女性流出がリードする地方の急速な若者減・出生減からくる高齢化の結果生じた「ヒトとクマとの生存競争の激化」に対して、クマ対策に国が本腰を入れて乗り出さねばならないステージにまできてしまったといえるだろう。

冒頭で紹介した横山教授は「過疎化と高齢化で、人の手が山に入らなくなっていることで、クマにとって住みやすい状態になっている」「人の生活圏は2年後、クマの生活圏に置き換わる可能性がある」と述べている。猟友会の高齢化によるクマへの対応力の低下が指摘されてきたが、猟友会はあくまでも趣味の団体であり、彼らの善意のもとに深刻なクマ害に対してこれまで策がとられてきたことを忘れてはならない。

クマ害は東北地方だけの問題ではなく、急速な人口減少によって浮上した「山の国」ニッポンの令和の国家的課題である。人口動態の分野の研究者である筆者からも改めて、国が対策に乗り出すことの重要性を指摘しておきたい。

天野 馨南子 ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー

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あまの かなこ / Kanako Amano

東京大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。1995年日本生命保険相互会社入社、99年より同社シンクタンクに出向。専門分野は人口動態に関する社会の諸問題。総務省「令和7年国勢調査有識者会議」構成員等、政府・地方自治体・経済団体等の人口関連施策アドバイザーを務める。エビデンスに基づく人口問題(少子化対策・地方創生・共同参画・ライフデザイン)講演実績多数。著書に『まちがいだらけの少子化対策』(金融財政事情研究会)『未婚化する日本』(白秋社・監修)『データで読み解く「生涯独身」社会』(宝島社新書)等。

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