俳優・山本學が感じた【認知症で衰えるのは「知の働き」だけではない】という"当たり前の現実"

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朝田 私が感銘を受けたのは、學さんが「認知症において、情や意の治療はどうなっているのか」、と質してこられたことなんです。

医師として認知症に向き合っていると、患者さん自身も含めて、どうしても記憶や知性という部分に焦点を当ててしまいがちです。ところが學さんは、「情や意も立派な脳の働きだろう」と疑問を呈された。

私はそこでハッとしたわけです。なるほど、医師も患者も家族も、「知」ばかり気にしているけれども、認知症患者は情や意も衰えている。患者さんにとってもそれはつらいことのはずなのに、誰もが気にせずにいた。そう気づかされたのです。

山本 いや、僕の話は自分の経験から感じたことを言葉にしているだけで、朝田先生が究めてこられた学問のように、体系化されたものではないんです。

ただ、軽度認知障害だと診断されて自分で思ったのが、最近は怒りっぽくなっていたな、ということなんです。

みんなはだいたい、知識がどうの、記憶がこうのと言うんだけれど、僕は怒りの感情が出やすくなってきたことが自分で気になっていたんですね。

認知症で最初に障害が起きるのは「意思」のほう

朝田 実際、怒りっぽくなることは認知症の始まりなのではないかと、ご家族からも質問をよく受けます。

でも私は、実は違うと思っていましてね。ある程度お歳を召してきて、社会の第一線から身を退くと、怒りっぽくなる人は普通にいるんです。

自分に対するリスペクト、敬意が足りないと思ったときに怒りが爆発してしまう。これは認知症の症状というよりは、本人の老化と、取りまく社会との関係で起きてしまう事故のようなものではないでしょうか。

山本 僕は5歳まで自己主張の強い悪ガキで、両親がしつけに苦労した結果、扱いやすい子どもになりました。以来、自分で自分を権威づけることは極力しないように気をつけています。

よくベテランの芸能人が「先生」なんて呼ばれるけど、そういうのはやめてくれと、こちらからお願いしてきた。だから、敬意が足りなくて怒るという、今先生がおっしゃったような経験はないです。

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