台湾の歴史認識と日本の保守界隈との親和性。「心地よい幻想」で成り立つ日本と台湾の関係は危うい
次に、日本社会での台湾理解は「(戦前から台湾に住む)本省人か(戦後台湾に移った)外省人か」「台湾独立か中国統一か」「親日か反日か」といった単純な二項対立に押し込められてしまった。問題は李登輝にあるのではない。日本社会が今なお90年代に形成されたこの枠組みから抜け出せずに変わりゆく台湾を相変わらずその視点から判断しようとすることにある。
台湾の2大政党はどちらも「保守」
筆者は日台の研究者が集まるシンポジウムでこの問題意識を共有することは、今後の日台の連携強化のために必要であると考えていた。しかし、シンポジウムの討論では、ある台湾人研究者が「日本のイデオロギー問題は日本人自身の課題であって、台湾人の問題ではない」と語った。筆者はその言葉に深く考えさせられた。
日本では、国民党が民主化以前の「一党独裁体制」のイメージが強いのに比べ、多くの人が民進党にリベラルなイメージを持っている。それは結党の歴史的背景、同性婚法の成立、台湾先住民への謝罪などの政策、国際的なリベラル勢力との連携や権威主義体制への対峙姿勢がその理由だろう。
ところが、民進党は一見真逆なイデオロギーを持つ日本の自由民主党と仲良くしており、台湾の大学で「安倍晋三研究センター」が設立された時には民進党出の総統が嬉々として挨拶を担った。自民党総裁には高市早苗氏がよいと考える民進党の政治家は多く、「日本人ファースト」の参政党と大規模な交流までしている。一体なぜなのかと疑問に思う人たちもいるかもしれない。
イデオロギー対立について日本的な感覚で言えば、右派の逆は左派になるのだが、台湾では、国民党が「中華民国(中国)ナショナリズム」、民進党は「台湾ナショナリズム」の政党である。つまり、両党とも日本の政治対立軸に当てはめれば“保守”に該当する。
台湾の2大政党はともに現実主義的なナショナリズムの上に立っているため、台湾社会では、その両極のナショナリズムの間で人権や環境問題などに関わる個別な懸念事案が議論されている。国家の存立が常に脅かされているからこそ、政治の対立座標軸が日本と異なるのだ。これは、「国」という存在が容易に揺らがない日本人にはなかなか理解しがたいことなのかもしれない。
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