1日約3万5000回も決断「人間」の知られざる能力 AIにはできない選択という行為 脳科学者・茂木健一郎さんが語る"AIの今"

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

では、そう考える根拠をお話ししましょう。

グライムス。カナダのバンクーバー出身のミュージシャンで、2012年にリリースした3枚目のアルバム『Visions』によって一躍ブレイク。その3年後に出された4枚目のアルバム『ArtAngels』が世界各国で大ヒットして、シンガーとしての地位を確立しました。

グライムスは、Garage Bandのような音楽ソフトで音をいじって遊びながら録音するのが好きだったといいます。

高いお金をかけてスタジオを借りたり、バンドのメンバーを集めることでストレスを溜め込むよりも、自分のペースで思う存分音楽づくりができるのが彼女にとっては何よりも重要だったのです。

グライムスにある大物起業家が目をつけた

そんなグライムスに、ある転機が訪れます。かねてAIに興味があったグライムスにある大物起業家が目をつけました。イーロン・マスクです。

AIについての思考実験「ローコのバジリスク」(注)をもじったジョークを思いついたイーロン・マスクが、それ以前に同じジョークをTwitter(当時)に上げていたグライムスを発見し、「自分と同じ感性を持っている」と感動して即座にグライムスにコンタクトを取ったといいます。

(注)「ローコ(Roko)のバジリスク」……2010年にオンラインコミュニティ「LessWrong.com」のユーザー「Roko」が投稿した思考実験で、哲学的な概念。AI研究者、未来学者、SFファンなどの間で、その奇妙さと倫理的問題提起から大きな議論を呼んだ。
AIで覚醒する脳: AIには絶対できないこと 人間だけができること
『AIで覚醒する脳: AIには絶対できないこと 人間だけができること』(実務教育出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

ツイッター上でのやりとりをきっかけに意気投合し、交際に発展して2人は3人の子どもをもうけました。

グライムスの人生は、まさに自分が没頭できる選択をすることで思いもよらない未来が待っているということの好例であり、先に述べたGarage Bandで曲を作ったことがある3人の子どもたちにも共通する脳の使い方だと考えられるのです。

とりあえずいい大学を出ていい会社に就職する。そういった選択の中では、こうしたグライムスのようなストーリーは一生手に入れることはできないでしょう。

茂木 健一郎 脳科学者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

もぎ けんいちろう / Kenichiro Mogi

1962年生まれ。脳科学者。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院特任教授(共創研究室、Collective Intelligence Research Laboratory )。東京大学大学院客員教授(広域科学専攻)。屋久島おおぞら高校校長。『脳と仮想』(新潮社)で第四回小林秀雄賞、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第十二回桑原武夫学芸賞を受賞。著書に、『「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本(共著)』『最高の雑談力』(以上、徳間書店)『脳を活かす勉強法』(PHP 研究所)『最高の結果を引き出す質問力』(河出書房新社)ほか多数。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事